缶コーヒーの絆
『なろうラジオ大賞4』参加作品です。
キーワードは『缶コーヒー』。
キーワード通り、缶コーヒーのような味わいをお楽しみください。
カシュっという小気味良い音。
小さな飲み口から立ち上る湯気。
鼻に流れ込んでくる焦げたような匂い。
口を付けると苦味と薄い酸味が舌の上で踊る。
慣れはしたけど、美味しいと思った事はない。
『すげー! ユイねぇ、コーヒーブラックで飲めるの!?』
ヒロにそう言われたのが高校受験の時だから、かれこれ十年以上か。
あの時は眠気覚ましに嫌々飲んでたんだけど、小学生のヒロには格好良く見えたらしい。
近所に住む幼馴染のお姉さんとしては、その格好良い幻を消したくなくて、コーヒーを、しかもブラックを選んで飲むようになった。
今考えると恥ずかしいくらい子どもっぽい動機だけど、気が付けばいつも缶コーヒーのブラックを飲んでいる。
『ブラック飲むなんてイケてるゥー」
大学の時にチャラい男共は、会話のきっかけに私の缶コーヒーに目をつけた。
でも何も感じない。
あの時のヒロのキラキラした目。
それ以外に私がコーヒーを飲む理由はないのだから。
「ふぅ……」
息を吐くと、目の前に白く香ばしい香りの雲が一瞬漂う。
あ、そういえば。
『なんでコーヒー飲んでるのに、息白いの?』
なんて言うから思わず大笑いして、しばらくむくれさせちゃったっけ。
そのヒロももう社会人。
……五歳の差は大きい。
一緒だったのは小学校だけ。
中学も、高校も、大学も、ヒロと同じ空間にいられなかった。
背は追い抜かれたのに、歳の差は縮まらない。
だから私はコーヒーを飲む。
それが私とヒロを繋ぐ、唯一の絆のように感じていたからだ。
……でも、それもそろそろおしまい。
冷たくなった缶をリサイクルボックスに入れる。
カランカランと軽い音。
少し寂しい気もするけど、いつまでもコーヒーに縋って生きていく訳にもいかない。
私は大きく背伸びをして歩き出した。
「ユイねぇお待たせ!」
「遅い」
「ごめんごめん。あ、またコーヒー飲んでる。好きだねぇ」
あんたが遅いから二本目飲む羽目になったってのに……。
「で、あんたいつになったらその『ユイねぇ』をやめるの? 私の両親に『ユイねぇを僕にください!』とか言ったら張り倒すからね?」
「う、言いそう……」
「だから今から慣れときなさいよ」
「……分かった。……ゆ、ユイコ……」
「なぁに? ヒロ」
あ、真っ赤になってやんの。可愛い。
「ちょ、もうちょっとユイねぇで呼ばせて!」
「はいはい。あんまり待たないわよ?」
「……頑張る」
強張るヒロの手をそっと握る。
缶コーヒーよりも暖かくて確かな絆がここにある。
読了ありがとうございます。
え? 缶コーヒーにしては甘すぎる?
世間にはマ○クスコーヒーというものもあってじゃな……(震え声)。
お楽しみいただけましたら幸いです。




