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暗狩峠

作者: 降魔 鬼灯


高校へ入学してから出逢った私たち4人は出身中学も性格も違うのに何故か馬が合った。

大人っぽく姉御肌の亜里沙。真面目な優等生の櫻子。

甘えん坊の梢。聞き役の私。バランスが良かったのかもしれない。


 いつも放課後に四人でケイタイ充電したり、くだらない話にはなを咲かせた。

終業式の日。明日から夏休みという気の緩みもあったのかもしれない。


 軽い話の流れで、こっくりさんをすることになった。


 夏休みの注意事項が書かれた紙の裏に鳥居と文字を書いていく。単純なのだけど、質問にスムーズに答えてくれるこっくりさんに私達は夢中になっていた。

 それは、いつの間にか夕暮れ時になっていたことに気付かない程だった。


ガラッー

「お前ら早く帰れよ。」

大きな音を立てて扉が開く。体育教師の向井だった。


その音に驚いて梢が10円玉から手を離してしまった。


向井が出ていった後

「どうしよう?こっくりさんに帰ってもらうまでは絶対に手を離したらいけないのに。」梢が泣きだした。


「大丈夫よ。とりあえず学校から出ないと。門が締まるわ。」亜里沙が十円玉から手を離し、カバンを手にすると、ハンカチを取り出して梢にわたした。


「落ち着いて公園で続きを。とりあえずこっくりさんに帰ってもらいましょう。」櫻子が冷静に言う。指を離してしまった段階でルールを、破ってしまってる。

10円玉に無理やり力を加えてでも帰らせるつもりなのだろう。梢が泣いている間に私たちに目で合図をしてきた。


 夕焼け時の公園でさっき使っていた紙と10円玉を取り出す。

「「こっくりさん、こっくりさん、お帰り下さい」」

私たち三人は、十円玉に力を入れた。

しかし、10円玉が意思を持ったように『いいえ』の方へ向かう。

驚きから背中に冷や汗が伝う。

「「こっくりさん、こっくりさん、お帰り下さい」」

普段、冷静な櫻子の瞳に焦りが混ざった。

10円玉は己の意思すら感じさせてすーっと『いいえ』へと吸い込まれていった。

何度繰り返しても、10円玉は『いいえ』に向かった。

辺りは真っ暗になっていた。街灯の灯りは心もとない。 

 もう、帰りたい。でも、帰れない。そんな空気に支配されていた。

 そんな中、梢がカバンからごそごそと何かを取り出した。いつも充電に使ってる手回し懐中電灯だった。ラジオやケイタイ充電ポートもついてる防災用の学校の備品だ。

「よく、そんなのもってきたね。」亜里沙がびっくりしたように言った。

「さっきケイタイ充電しててそのまま慌てて一緒にカバンにいれちゃったみたい。」

ハンドルを回すと周囲が明るくなった。

「そしたら、最後一回だけ質問を変えてしようか?」手元を照らす灯りに少し元気がでたのか、亜里沙の声も明るくなっていた。

「「こっくりさん、こっくりさん。どうしたら帰ってくれますか?」」

 10円玉がすーっと動く。

『く』『ら』『が』『り』『と』『う』『げ』


くらがりとうげ?

ケイタイで検索する。そこは電車に乗って徒歩で数分登山しなければならない場所にあった。

この格好で?この時間に?

「明日にしようか?」亜里沙が明るくいう。しかし、梢が泣き出した。

「こっくりさん、帰らなきゃ帰れない」

仕方ない。電車に乗り向かうこととなった。


なんでこんなことになったのだろう?

明るい車内なのに、私たちは黙りこくっていた。


 駅から登山道を通って暗狩峠を目指す。

幸い道は登山道で整備されていて、街灯もあった。

途中までは。

 だんだん暗く細い山道になっていく登山道を一本の懐中電灯の灯りを頼りに進む。

何度も足をとられそうになる。辛い。

 無言のまま、傾斜のきつい坂道を登り峠にたどり着いた。

息を整える余裕もなく、ひときわ大きな木の根元に10円玉を埋めた。

こっくりさんに使ったプリントの裏紙に包んで。

埋め終わった後、私たちは、やり遂げた達成感から一様にほーっと息を吐いた。

 その時。


 ザーッ

突然、懐中電灯からノイズが聴こえた。

『……####…………』

何か人ならぬものが話しているような声が聴こえた。


真夏なのに、背中に冷や水を浴びせかけられたようだった。足がガクガクと震えた。


 「あ、これラジオ点いてる。」

櫻子の声で正気にかえる。

そうだ、あれはラジオのノイズだったんだ。

そう自分に言い聞かせるように、逃げるように下山した。

何度か転んだけれど、気にする余裕も無かった。

誰も口をきかなかった。

いや、きけなかった。





今日は二十歳の記念のクラス会。みんなの都合で夏休みに開いた。

久しぶりにみんなに会える。

それに今日はタイムカプセルを開けるのだ。



私たちは4人で1つの箱に入れていた。

「何を入れていたかな?」

わくわくと箱を開く。

あの懐中電灯が出てきた。

「あーっ、入れたの忘れてた。」梢の能天気な声が聴こえてきた。

「学校の備品なんだけど。なんか怖くなってタイムカプセルの箱の中にいれて埋めたんだよね。亜里沙は捨てようって言ってたをだけど。」へへっと笑ってる。

梢、あんたはそういう奴だわ。

「懐かしいな。」梢は、懐中電灯のハンドルをくるくる回して充電をした。

「亜里沙と、よくそれでケイタイ充電してたわね。」

櫻子が懐かしそうに目を細めた。

亜里沙は高校を卒業した夏に事故で亡くなっていた。


「私ねー。亜里沙が亡くなる1週間前に会ったんだー。」梢が、しんみりと懐中電灯をなでる。

「亜里沙ねー。あの時、暗狩峠でラジオから聴こえた音、数字に聴こえたんだって。37564って。私にはノイズしか聴こえなかったんだけどな。」


「梢も?私にもノイズにしか聴こえなかった」櫻子が考え込むようにつぶやく。


亜里沙にだけ聞こえたってこと?

みんなにはノイズに聴こえたのに?


「数字に意味はあるのかしら?ラジオの周波数?」つぶやいていた櫻子は何かに気がついたように、はっとしたように顔をあげた。

「櫻子どうしたの?何か解った?亜里沙は、最後にあった時、ようやく意味が解ったって言ってた。けど、どんだけ考えても私には解んないのー。」梢が寂しそうにつぶやく。

「解らない方が幸せかもね。」そう微かに微笑んだ櫻子は儚げで綺麗だった。

そして、それが櫻子を見た最後の時になるなんて私たちは思いもよらなかった。



「亜里沙も櫻子も亡くなるなんて。」梢が号泣する。


 梢安心して、あなたは一人じゃない。

もうすぐ37564の意味も解るはず。

私たち4人はいつも一緒だよ。

その為のキーワード『み』『な』『ご』『ろ』『し』なんだから。






「ねぇ聞いた?あの仲良し三人組みんな亡くなったらしいよ。」

「でも、あいつらっていつも三人なのに、自分たちのこと何でか四人っていってたよね…。」









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