08.世界を救え
「フィアナ……?」
結晶体の中の少女を見るなり、無意識にその名が出た。
すると少女は答えた。
「残念ながら私は貴方の親友ではないわ。私はエレオノーラ。気軽にノーラと呼んで」
「じゃあノーラさん。ここはなんなんだ? それに君は一体……」
「それを話すためにはまずは私をここから解放してもらわないと」
「解放ってこの結晶体から……ですか?」
「ええ」
「でもどうやって?」
「簡単よ。貴方が結晶体に触れればいいだけ」
「これに触れるだけで?」
見るからに分厚そうな結晶の塊だ。
恐らく魔法でも壊すことは難しいだろう。
それに僕の見たところ、この結晶体には特殊な術式が込められている。
どう考えても触れただけで壊せるとは思えない。
「心配せずとも大丈夫よ。なんたって貴方は特別なのだから」
「特別……? というか……」
僕が考えていたことが分かったのか?
口に出していないはずなのに。
「なので大丈夫です。私を信じてください」
どうにも信じられない。
あんなことがあった後だから余計にだ。
もしかしたら触れた瞬間、爆発でも起きるかもしれない。
でも……何だろう。
この人の言うことは信じられる……いや、何故だか信じた方がいい気がするのだ。
「わ、分かりました。触れればいいんですね?」
エレオノーラはコクリと頷くと、俺はそっと結晶体に触れた。
瞬間、結晶体は光に包まれると剥がれ落ちる鱗のように外側の結晶部分が削り落ちていく。
「ふぅ~久方ぶりに身体を動かしたわ」
結晶体から出たノーラさんは気持ちよさそうに身体を動かし始めた。
その一瞬の出来事に目を丸くしていると、
「どうしたの、そんなキョトンとして」
「い、いえ……」
似ている。
雰囲気こそ違うが、フィアナの双子だと言っても相違ないくらいだ。
この人は一体何者なんだ?
「んー色々とお考え中のようだけど、話してもいいかしら?」
「えっ、あ、はい」
いや今は下手なことを考えるのはやめよう。
状況が状況なのだから。
「まずはようこそ無限牢獄の世界へ」
ノーラさんは胸に手を当て、軽く一礼する。
「貴方のことをこの暗き世界から待ち望んでおりました。あの方がおっしゃった通りでした。運命というものは実に興味深いものですね」
「はぁ……」
何を言っているのかさっぱり分からない。
あの方とは一体誰のことを……
「あの方の写し鏡である貴方と歓談したいところなのですが、そんな悠長なことはしていられません。貴方にはこれから盛大な大番狂わせしていただくのですから」
「大番狂わせ……?」
妙に意味の深い言い方をするな。
「あ、あの一体これから僕は何を……?」
僕は恐る恐るその先を聞いてみると、
「貴方にはこれから世界を救っていただきます。そして、新たな世界を作り、新世界の王となるのです」
「……え?」
あまりにも唐突なことに言葉が出なくなる。
聞き間違いだとも思った。
だが、どうやらそうではないらしい。
そう思える根拠はただ一つしかない。
口元では笑っているが、彼女の目は決して笑ってはいなかったのだ。