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06.永久追放


「フィアナ……!」


 僕は思わず叫んだ。

 服を血で濡らした彼女を抱きかかえると、僕は必死になって問いかける。


「しっかりしろ、フィアナ!」


「……デ、ルタ……ご、め……ん……」


「もう喋るな。これ以上は――」


「安心しろ。今度はてめぇの番だ」


「くっ……!」


 また見上げると、今度こそその刃は僕の元へと向けられていた。

 

「デル……タ。にげ……なさい。あなた……だけでも!」


「そんなことできるわけない! キミを置いて逃げるなんて……」


 僕は血まみれの彼女をぎゅっと抱きしめた。

 段々と彼女の身体から熱がなくなっていくのを感じる。


「貴方……だけはいき……なさい!」


「フィアナっっ!」


 それが彼女の最期の言葉だった。

 フィアナはそっと目を閉じると、安らかに眠りについた。


 僕は何も考えられなくなった。

 恐怖と絶望と悔しさが混沌とし、心の中がぐちゃぐちゃにかき乱されていく。


「にげ……ないと」


 そう思っても身体は動いてくれない。

 まさに絶体絶命の状況。


 でも今更じゃないか。

 たとえ今、逃げたとしても僕の足じゃ追い付かれてしまう。


 僕には彼女のような才能もなければ力もない。

 考える必要なく、既に詰んでいるんだ。

 

 ならいっそ、僕も彼女と一緒に……

 そんな考えが頭を過った。


「ふん、もう逃げる力もなくなったか。まぁいい。てめぇもそいつと一緒に逝きな――」


 最後の審判のように聞こえるリクの声に僕は死への覚悟を決める。

 が、その時だった。


「おいリク。その辺にしておきなよ」


「あん?」


 いつの間にかリクの背後の三人の勇者の姿があった。

 

「なんだケイ。今いいところなんだが?」


「周りをよく見た方がいい。城の連中が君の騒ぎに気付いた。じきに騎士たちがこっちにくる。ボクたちで足止めはしておいたけど、長くは持たないよ」


「ちっ……くそが!」


「あんた、やりすぎなのよ。城の中で次々と人を殺しているのは分かっていたけど、今回のは露骨すぎ」


「馬鹿はこれだから困る」


「んだと!? てめぇら揃いも揃ってこの俺を馬鹿にしやがって、なんならてめぇらの魂も貰ってやってもいいんだぜ?」


 罵倒を一斉に受けるリクが三人を挑発する。


「あ~確かにそれも面白そうだね。君の能力は前々から気になっていたんだ。ボクの魔法実験の良い被験体になるとね」


「へっ、面白れぇ。被験体にできるもんならしてみやがれ」


 ケイがその挑発に乗ると、二人の間で見えない火花とオーラが空気を一変させた。


「なになに、バトル? 面白そ~!」


「ふん、くだらん」


 互いに殺意を向ける二人。

 だがオーラは二人を囲むと、そのまますーっと消えていった。


「ま、それはまた今度の機会にしよう。それよりもどうこの状況を乗り越えるかだ」


「勇者が城の人間を……しかも騎士団の総帥を殺ったとあっちゃ流石にマズイ。過去の殺害もリクの仕業だとバレれば最悪の場合、リクは処刑。ボクたちも勇者としての立場が危ぶまれるだろう」


「でも何か策があるんだろ? その顔を見せるということは」


「へぇ、強引な割に観察眼はあるんだね。もちろん考えはある。そこにいる寡黙で堅物な知の勇者様からのご提案さ」


「で、その策とは?」


「彼を使うんだ。そこで無様に死人を抱えた死人も同然の彼をね」


 そういうとケイを僕を見てニヤリと笑みを浮かべる。

 その笑顔はリクの時はまた違う、何かに囚われたような狂気を感じた。


「あ、私わかっちゃった! あの子に全てを擦り付けるってことね」


「その通り。生憎この世界でボクたち勇者はこれでもかとご都合主義的補正のかかったチート的な立場を持っている。誰も疑いはしないさ」


「ほう、そりゃいい。良質な魂を一個見逃すのは惜しいが、まぁいい。だがそいつの魂だけは貰ってくぜ」


 リクは剣を縦に構えると、聖剣の力を発動させる。

 瞬間、抱きかかえたフィアナの胸元から小さな光のようなものが出ると、そのまま剣へと吸い込まれていく。


「ま、待て! フィアナの魂を勝手に持っていくなっ!」


「黙れよ雑魚が!」


「ぐはっ!!」


 溝内に蹴りを入れられ、その場で蹲る。

 その間にフィアナの魂は完全にリクの剣へと吸い込まれていった。


「かっ、かえ……せ! それは……フィアナの……ものだ!」


「しぶとい野郎だな。やっぱりここで殺してやろうか」


「やめろ、リク。ここで彼を殺せば君も道連れだぞ。それに、君が殺さなくとも彼は死ぬことに変わりはない。なんたって彼はこれから()()()()()()()()になるのだから」


「ちっ。まぁせいぜいあの世で懺悔するといいさ。魂を俺に取られている以上、そこで眠っているお仲間さんにあの世で会えるかは分からんがな」


「く……そっ……!」


 意識が段々と遠のいていく。

 指先一本にすら、力が入らない。


「フィ……ア…………」


 そして遂には言葉さえも発することができなくなると、僕は静かに目を閉じた。



 ♦



「う、うぅ……」


 ここは……どこだ?

 僕はどうなったんだ?


 ガシャン。


 手元でそんな音が鳴る。

 同時に意識が戻ってくるにつれて身の不自由さも実感する。


「これは……」


 僕は完全に手首を拘束されていた。

 周りを見渡すと、見慣れた光景が広がっている。


「地下牢獄か……」


 新兵だったころに良く見回りをさせられた場所だ。

 でもまさか自分が入ることになるなんて思わなかったけど。


「くそっ、あの後どうなって……」


「ようやくお目覚めですか?」


「あ、貴方は……!」


 貴族服を身に纏った青年が牢の扉を開け入ってくる。

 国王ヴェルファイアに仕える右腕。この国の頭脳とも言える存在。


「エルダー様……」


「私の名を気安く口にするなこの外道め!」


「エルダー様! 聞いてください。これは――」


「罪人に貸す耳などない。おい、早くこの外道を処刑台へと連れていけ」


「待ってください! エルダー様!」


「ふん、言い訳ならばあとで思う存分やるがいい。あの世でな」


 エルダーはそういうと奥の方へと姿を消していった。

 僕は手首の拘束具をつけたまま、騎士に連行される。


 ああ、そうか。

 僕はあの男に()()の罪を擦り付けられたんだ。


 この様子じゃ、今から向かうところは処刑場。

 そして僕の罪状を察するにもう選択肢はない。


 僕は確実に……殺される。


「ここからは頭を下げて入れ。上げることは決して許されない」


「はい……」


 予想通り、連れてこられたのは群衆に囲まれた城の上部にある処刑場だった。


「やっときたか、この人殺しが!」


「極悪人め!」


「団長を返せ! この外道が!」


 僕が現場入りした途端、四方八方から罵声が飛び込んでくる。

 下からチラッと見渡すと、みんな凄い形相で僕を睨んでいた。


 昨日までは普通に話していた同僚でさえも、眼の色の変えて僕を見ていた。

 まるで別人に見られているかのようだ。


 僕が処刑台に上ると、再び拘束される。

 今度は手だけではなく、足も完全に拘束された。


 これでもう逃げることは出来ない。


 僕が拘束されると歓声が沸き起こる。

 同時に殺せ、殺せと耳が痛くなるくらいのコールが城内に響き渡った。


 そのコールの中で顔を上げると、多くの人間が僕に殺意を向けていた。

 だがその奥で口元を歪ませる者たちが数人いる。


 勇者たちだ。

 中でも剣の勇者は片手にジョッキを持ちながら、愉快そうに僕を見ていた。


「くそっ……!」


 悔しさと自分の未熟さで怒りがこみあげてくる。

 すると、


「静粛にっ!!」


 ある人物の一言で歓声が止んだ。

 国王のヴェルファイアである。


 ヴェルファイアはコホンと咳払いすると、


「ではこれより、罪人デルタの処刑の儀を執り行う。法令213条の5の規定により、今回は公開裁判の執行はなしとなる。よってこれより実刑へと移る!」


 この一言で再び歓声が戻ってくる。

 そう、この国で同族殺しは禁忌に等しい行為だ。


 本来ならば冤罪をしないために、幾度か裁判にかけられるのだが、例外が一つある。

  

 それは数人の殺害。簡潔に言えば三人以上の殺人行為に及んだ場合だ。

 これに該当すれば協議することなく、即死罪となる。


 今回、リクが殺した人間はフィアナを入れて合計で10人を超えている。

 フィアナだけの殺害であれば、僕がここに立っていることはまだないはず。


 となれば、あの男は自分の犯行も全て僕に擦り付けたということになる。

 都合の良いように利用されたのだ。


「罪人デルタよ。最後に何か言い残すことは?」


 どうせ死ぬんだ。

 それにもう親友もこの世にはいない。


 僕は彼女に救われて生きることを許された。

 だから、フィアナのいない世界なんて生きていても意味がない。

 

 でも仮にもう一度生まれ変わることが出来たなら、今度こそ……


「おい、剣の勇者リク! お前は勇者の風上にも置けない外道だ! そして、それに賛同する三人もたかが知れている。僕は絶対に許さない。僕から親友を奪ったその報い、必ず受けてもらうぞ!」


「なっ、貴様! 勇者様に向かってなんて卑劣なことを!」


「勇者()()ですか。貴方もじきに分かりますよ。あんなのは勇者なんかじゃない。ただの人殺しだ」


「な、なんてことを……」


「この外道が!」


「勇者様に向かってなんたる無礼な!」


 国王の取り巻きたちが顔を真っ青にしながら、口々にそう言い始める。

 でもなんだろう。


 なんか吹っ切れた感じだ。

 でも同時にあの男の顔を見る度に沸き起こる感情があった。


 今までに感じたことのない感情だ。

 怒り……いや違うな。


 でも初めてだ。

 こんなに他人に対して、殺意を持ったのは。


「貴様、そんなことを言ってただでは済まさぬぞ」


「じゃあ、どうするんですか?」


「貴様はただ殺すだけでは物足りない。よって罪人デルタ、貴様を時空牢獄へと永久追放することとする!」


 そう高らかに宣言すると、


「じ、時空牢獄って……」


「ま、まさかあの術式を……」


 国王の新たな決定に群衆がざわつき始める。

 

 時空牢獄……噂では聞いたことがある。

 ユーラシアが誇る伝説の秘術。


 古代の昔、神さえも抗えることが出来なかったとされる封印術。

 そして、かつてこの世に君臨していたとされる〝魔王〟という存在を封じ込めた術。


 そのおかげで人類は魔族相手に優勢に転じることが出来たという一節もあるほどだ。

 

 まさか本当に存在していたなんて……


「術班、術式準備!」


 国王ヴェルファイアの一言で数人の黒装束を纏った魔術師たちが裏口から出てくる。

 そして囲むように人員を配置すると、


「ふふふ、デルタよ。貴様はこれから地獄を見ることになる。せいぜい死への恐怖に苦しみながら、無の空間で朽ち果てるがいい!」


 ヴェルファイアは片手を天高く上げると、


「術式開始!」


 手を振り下ろし、途端に数人の魔術師たちが呪文を唱え始めた。


「な、なんだ? 身体が……!」


 詠唱を始めたと同時に何かに身体が吸われるような感覚を覚える。

 瞬間、目の前がピカーンと光り輝くと僕の意識はここで途絶えた。

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i638261 ホワイトパーティー第2巻が発売中です! 1巻の時と同様に全力で書かせていただきましたので、是非お手にとってみてください!!
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