04.助太刀
「なにってこれからてめぇを喰うんだよ。……厳密にはてめぇの魂をな」
剣を突き出し、不気味に笑うそれは勇者のなりをしたバケモノかと思うくらいだった。
「さぁてどう料理してやろうかな」
そう言った瞬間に奴から殺意が漏れ出てくる。
凄まじい殺意だ。
最初は何をふざけたことを……と思ったが、これは違う。
こいつはマジで僕を殺る気だ。
「リク様……これは一体どういうことですか!?」
「どういうこと……か。そりゃ、俺があのクソ女神に頼んで得た力さ」
「力……?」
「知りたいか? なら冥土の土産に教えてやるよ」
リクは聖剣を天高く突き上げる。
「俺の力は人の魂を取り組んだ数なのさ。この聖剣デスバーンが魂を奪い、俺はそれを糧とする。勇者の力として外道だろうが、俺にはピッタリの力さ」
「魂を奪う……?」
「ああ。それが俺の能力『魂奪』だ」
人の魂を奪い、自らの力に変えるということか。
流石は勇者だ。
常識の範囲を軽々超えている。
でも待てよ。
この人の力は……
「まさか……」
「お、勘が良いな。もう気づいたか?」
まさかとは思った。
でもこの人が犯人なら色々と辻褄があってくる。
「貴方が……やったのですか?」
城内を騒がせている連続殺人事件。
最初は敵国のスパイが城内に潜り込んだという推測がされていたのだが……
なるほど。この人なら可能だ。
なにせ彼は腐っても勇者。
誰も疑いの目を向けることはないのだから。
「ふふふ……はははははっ! 中々に美味だったぞ。あいつらの味は」
「くっ……!」
僕はすぐに臨戦態勢をとった。
だが向こうは非常に落ちついている。
まるでこういう状況に慣れているかのようだった。
「ホント、城の中にいる連中は国王を筆頭にバカばっかりだぜ。おかげで召喚された時よりも更に強くなった。この力を更に磨けば、もう誰も俺に指図することはできねぇ。魔族領との戦争が始まれば更に大量の人間を殺すことが出来る。そしてその魂を全部喰らえば……俺はこの世界で敵に無しだ。誰も俺には逆らえない」
「また人を殺すのですか?」
「ああ、殺すさ。自分のためなら何十人、何千人もな。そして、次の獲物はてめぇというわけだ!」
「くっ……! 上級防御結界!」
即座に防御結界を発動する。
「そんなもんが通用するかよ!」
刹那の一振り。
その斬撃は二十三十と張り巡らせた防御結界を軽々と壊していく。
「なにっ……!」
「おいおいどうした? 守ってばかりじゃ勝てないぞ」
向こうは余裕の笑みを見せる。
反撃はしてはいけない。
そんなことすれば僕は……でも!
「このままじゃ何も変わらない。例えどんな結末になっても、やれることはやらないと!」
どちらにしても僕に選択肢はない。
ここで何もしなければ無駄死にするだけだ。
なら、やってやろうじゃないか。
相手が勇者だからなんだ。
こいつはもう立派な罪人だ。
罪人は処すべし。
スラムで苦行を味わい、魔術師としての力を手に入れてから僕はこの教訓を持つようになった。
それは相手がたとえ誰であろうと、例外はない。
「悪しき炎を打ち消し竜撃の舞よ。今こそ其の枷を解き放て――【撃滅竜息】!」
悪を滅する断罪の吐息。
俺は上級英霊魔法を発動し、奴にはなった。
流石の勇者とてこのレベルの魔法なら……
「ふんっ! それがどうした!」
リクは聖剣を握ると思いっきり薙ぎ払った。
すると、凄まじい衝撃波が発生し魔法ごと吹き飛ばした。
「ま、魔法を吹き飛ばした!?」
力づくで魔法を吹き飛ばすなんて……そんな馬鹿な。
「なんだ、もう終わりか?」
「くっ……!」
予想はしていたが、力の差がありすぎる。
今の魔法でもこの国で使える者が指折りしかいない上級魔法だぞ。
それを軽々と……
「これが勇者の力なのか……」
「さてどうやらここまでようだし、大人しく死んでもらうとするか。いやぁ楽しみだな。てめぇほどの純度の良い魂はさぞ美味だろうよ」
「純度……?」
「魂にも品質ってもんがあんだよ。俺はそれを選んで自らの糧としてきた」
なるほどな。
だから特定の誰かを襲ったということか。
その純度が良い魂を選定して。
「それで、僕の魂は高品質だと?」
「ああ、それも別格にな。お前を毎日いたぶっている内にそう悟ったのさ。おかげでさっきから疼いて仕方ねえよ。早くてめぇを喰らいたいってな!」
「くっ……!」
凄まじい圧の眼差しを向けてくる。
完全に狂った人間の眼だ。
このままじゃ僕は……確実に殺される!
「さぁ、覚悟はいいな?」
聖剣を振り上げ、狙いを完全に僕へと絞る。
それはもう逃げの一手すらも打たせない刹那の時間。
完全に獲物を捕らえた獣のように奴は聖剣を振り下ろした。
「しねぇぇぇぇぇぇ!」
「うっ……!」
流石に万事休すか……と思ったその時だった。
「デルタぁっ!」
後方から聞こえてくる叫び声。
それと同時に僕の首元近くなら素早い一太刀が飛び出してきた。