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01.親友と勇者


 未だ人族と魔族の争いが絶えない世界。

 クレスト大陸北東部に位置する人類領ユーラシア帝国は魔族領ユーフォニア王国との戦時下にあった。


 戦局は五分であり、互いに一歩も譲らない戦いが幾日も続いていた。

 そんな中、ユーラシアはこの戦局を一気に覆すべく、とある大秘術を決行した。


 それは……勇者召喚。


 伝承に基づき、異世界からこの世界において才ある者たちを召喚する秘術だ。

 

 そして召喚された者は国の大いなる戦力として君臨し、人類の敵である魔族たちを駆逐する。

 

 ユーラシアはこの勇者召喚のおかげで秘術行使国として大陸でも指折りの地位を誇っている。

 そして今日、歴史上10度目の召喚の儀式が行われた。


 召喚された勇者は全部で四名。

 

 剣の勇者 リク・シンドウ 

 癒しの勇者 ミライ・シマカゼ

 知の勇者 ゲン・カワカミ

 杖の勇者 ケイ・ヨネガワ


 彼らは次元を超えて、この世界に勇者として降臨した。

 

「よくぞ来てくれた、勇者たちよ!」


「何がよくぞ来てくれた、だ! 俺たちを元の世界に戻しやがれ!」


「そうよ! 早く家に帰して!」


「いきなり呼び出しておいて、随分な態度ですね。虫唾が走りますよ」


「ふん、くだらん」


 勇者召喚後に行われた式典はまさに前代未聞だった。

 反発した勇者たちが騒ぎを起こそうとしたのだ。


 俺は軍からの参列者としてその光景を見ていた。

 

 初めは他人事のように思っていた。

 でも今は違う。


 なんでこんなことになったのか、俺にも分からない。

 まさか一介の宮廷魔術師に過ぎない俺が、彼らの護衛役に任命されるなんて……


 そして彼らの護衛役になったことで、俺の人生は大きく変わっていくことになるなんて……


 任命された当時はそんなこと知る由もなかった。



 ♦



「やったねデルタ。大出世じゃん!」


 式典から数日が経ったある日、僕が休憩室で休息を取っているとフィアナが声をかけてきた。


 彼女はフィアナ・バーンシュナイド。

 ユーラシア帝国第一宮廷騎士団騎士団長にして、僕の唯一無二の親友だ。

 

「そうかな? ただの護衛役だよ?」


 式典から二日後、僕は突然陛下の側近たちと面会をすることになった。

 そこで突然言い渡されたのだ。


 勇者たちの護衛役に任命すると。

 

 理由は何故かは分からない。

 ただこれは任務だと言って、僕に決定権はなかった。


 そんなことがあり、僕は宮廷魔術師としての仕事も並行させながら勇者様たちの護衛役をすることになったのだ。


「バカ言いなさい! 勇者様の護衛役なんて本当に優秀な人間しかなれないのよ? 100年前に行った大規模召喚時だって護衛役についたのは剣聖ニコラス・バトラーをはじめとするこの国の英傑たちだったと聞くわ」


「相変わらず勇者のことになると熱くなるよね」


「当たり前よ! 私にとって勇者という存在は憧れの枠に収まらず、目指すべき境地なんだから。あの小説の英雄譚のように」


 彼女は勇者を心から敬愛している。

 とある人気小説の英雄譚に出てくる勇者に憧れて。

 

 というか、この世界では勇者に憧れる人間なんて山ほどいる。

 実際、人類の歴史は過去の大戦でも勇者たちの力によって守られてきた。


 だから勇者という言葉だけに留まらず、この国では運命を変えるもの、救済者、神々の代行者……と様々な呼び方が存在する。

 まさに神的象徴とも言える存在なのだ。


「いやぁ~でもまさかデルタが指名されるなんてね! 我が親友がどんどん大きな存在になっていくわ!」


「大袈裟だって。フィアナこそ、騎士団統括を任せてもらえることになったんでしょ? それこそ凄いことじゃん!」


 フィアナは今まで第一宮廷騎士団の団長だったが、その目覚ましい功績と部下からの厚い信頼もあって騎士団統括という地位にまで昇格を果たした。


 騎士団統括というのはいわばこの国の軍における最高指導者と言っても過言ではない。

 我が宮廷魔術師団は別枠となるが、この国の兵力のほとんどは騎士団によるもの。


 なので彼女は実質、この国の軍力を任せられたという形になる。

 

 そこでついた異名が白銀の女帝騎士。

 誰もが羨む華美な銀色の髪を持つことから、この名がついた。


「や、やめてよ。もう既にプレッシャーで吐きそうなんだから」


「まぁ……そうだよね」


 この国の軍事力の大半を操作する側の人間になったんだ。

 責任感は半端じゃないだろう。


 特に今はユーフォニアとの戦時下にある。

 自分の指示一つが他の騎士団員の運命を左右するのだから、余計にプレッシャーを感じているはずだ。


「悪い。変に圧をかけてしまったな」


「大丈夫。実際名誉なことだし。任された以上、全力でやってやるわ!」


「フィアナならできるよ、なんたって僕の親友なんだからな」


 と、一言冗談交じりで言うと。


「あら、貴方も言うようになったじゃない。デルタこそ、相手が勇者様だからといって遅れはとらないでよ? ま、この偉大な騎士団長様である私が親友なのだから問題はないと思うけど!」


 向こうも笑顔でそう切り返してくる。

 この笑顔に僕は何度救われたことか。


 宮廷入りした時、僕は本当に無能の極みだった。


 世間知らずだった僕はなにやっても失敗していた。

 

 僕はスラム街の出身だ。

 とはいってもいつどこで生まれたのか、誰が親なのかも分からない。

 

 気が付けばスラム街に住むならず者たちの奴隷として酷使されていた。

 自分は誰なのか、名前すらも分からない暗闇の中で彼女は唯一僕に光の手を差し伸べてくれたんだ。


 あれはいつの時だっただろうか。

 もうあまり覚えていないが、情けなく泣きわめく僕をずっと慰めてくれていたような気がする。


 今となっては情けない話だけどね。


 でもあの時僕に見せてくれた笑顔だけは今でも鮮明に覚えている。

 その時から、僕にとってフィアナは命の恩人になっていた。


 僕の名前、デルタも彼女から貰ったものだ。

 理由はかっこ可愛いから、だって。


 今思えば、かっこ可愛いってなんだろう。


 でも僕にとってはこの上なく嬉しいことだった。

 自分を存在を認めてくれる人がいるということだけでも、救われたような気がしたんだ。


 フィアナは宮廷騎士団入りを目指す騎士学校に通っていた。

 しかも彼女の家は大貴族ということで、僕の入学の口利きまで行ってくれた。


 だが試験を受けた際に魔法による適性が周りの受験者よりもあったためか、特別推薦で魔術学校の方に転入することになった。


 この出来事が僕の人生が大きく変えた瞬間だった。


 それから。

 僕は彼女を目標に死に物狂いで頑張ってきた

 

 互いに目指す場所は違うが、共に宮廷入りを誓い、そして……今があるのだ。


「なんか、スラムにいた頃がウソみたいだよ」


「もうあんな思い出は忘れなさい。それよりも今を大事にしていきましょう」


「……そう、だね」


 ああ……僕は幸運な人間だ。

 だってこんなにも僕のことを思ってくれる親友がいるのだから。


「さて、休憩終わり! 午後からもお互いに頑張っていこうね!」


「うん!」


 白い歯を見せ、彼女は再び笑顔を見せる。

 いつもの……彼女が見せてくれる輝かしい笑顔だ。

 

 だからこそ、この時の俺は考えもしていなかった。

 まさかこの笑顔が永遠に見られなくなるなんてことを。

お読みいただき、ありがとうございます!

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※本日はあと3話ほど更新予定です。

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