エンドレスサマー・エンドレスキス
「一線はこえないよ」
Face to face至近距離,ディスタンスゼロのあと見つめあう僕たち
僕の右手は彼女の髪をかきあげ背中へ,左手はふくよかな丘の中央へ
「もうこえてる」
再びディスタンスゼロ,僕の両腕は彼女を包み込む,そしてきつく,きつく抱きしめる。
「愛してるぜ」
「うそだ」
「うん,そりゃあね」
「ばか!」
急展開だ。
何度かデートを重ねたけれど,まさか居酒屋でこんな展開になるなんて
一線をこえる気はない
彼女はそう言った
ことの発端は彼女の一言
「私,あの人と逢っているの」
詳しくは知らない,僕と異動が入れ違いの男性,妻子持ち
つまりは不倫…。
わからなくない,自由がそのまま素敵な女性になった彼女,めんどくさい純愛よりは愛人としてフットワークが軽い方が楽なのだと思う
ただ…「ふうん」とはいかなかった。
「やめなよ,そんなもの」
一番嫌いだったはずの正論振りかざし
気がつけばマシンガンのように,彼女を諭していた
なぜなら
僕は彼女に恋をしているから
あとはちょっとの義憤
「あたい,やっぱバカなんだよ」
「あーバカだよ」
もはや対面式ではない,僕は彼女の隣に移動する。
肩に手をまわし,頭をなでたりパシパシたたいたり
そして見つめあった瞬間の出来事だった
もっと固いキスだと思ったけれど
彼女は僕を受け入れた
Face to face,ディスタンスゼロ
何度も何度も居酒屋の一室で
エンドレスキス
予想外の夏のラブストーリー
キスの合間に彼女の携帯が鳴る,僕たちの世界の外でうろたえている人物より。
「もう帰らないと」
気がつけば朝,19時スタートのデートは夜を超えた。
「すっぴんなんてぜってーみせない。あの人だけかな,見せられるのは」
そう豪語していた彼女ももはや説得力がない状態。
「俺も見せてもらってるけど」
「あー,やっちゃった,バカだ私」
朝の街角,別れ際にもう一度きつく抱き合い,キスをした
たぶん,明日には魔法が解ける
また彼女はあっち側にいってしまうだろう
でももしかしたら…
もしかしたら遠からずあっち側の魔法も解けるかもしれない
一切の魔法が解けたあと
僕は再び彼女と手をつなごうとおもう
実は赤い糸が繋がっているかも
そんな予感を感じさせる彼女
どうすればいいかはわかっている。
不倫を諭すのでも,一生懸命口説くのでもなく
僕が大きくなればいい。
「大きくなって,迎えに来て」
彼女の唇から感じ取ったメッセージは僕の中ではそう解読されている。