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異世界者(トラベラーズ)〜烏有の境界編〜 各話分割版  作者: 光輝麗
序章(第壹章) オタク童貞に恋は難しい。
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 第肆話。ツンデレも歩けば棒にあたる

肆。ツンデレも歩けば棒にあたる



「本当に何も覚えていないのね。和真君。」


鬼塚百合恵(おにづかゆりえ)は後悔していた。

まず、彼女が殴り飛ばしたことにより、2、3mほど宙に飛ばしてしまった少年のことをだ。

そして一番後悔しているのは、2年半ほど前の、ある事件の事と、それとほぼ同時期に行われた引っ越しのことだった。

 2059年9月28日16時23分1秒。

その事件は起きた。

彼女、鬼塚百合恵は家の方面が一緒の、ある友人と車で帰宅途中だった。しかし、そんな彼女たちを災厄が襲った。

 当時、年間で二十万台程売れていた完全自動運転式の電気自動車、「absolute topアブソリュートトップ」が、回線不調を起こし暴走したのだ。暴走時の時速は150kmを超えていたという。

 直撃した右側後部座席に乗っていた友人は即死。運転手の執事も全身複雑骨折で緊急搬送されるも、一時間後に死亡。車外に出ていた彼女は運良く無傷だったようだ。(詳しい情報は開示されていないので不詳な点が多数存在)

その際、彼女は車を路駐させ、歩道を歩いていた最愛の友人、永龍和真に挨拶をしていたところだったらしい。

 無傷だったのは、即座に彼女を庇った永龍の活躍のお陰に他ならなかったが、そのせいで彼は胸髄を損傷、頭蓋骨後頭部分を粉砕していた。

医者や会社の関係者はみな口を揃えてこの状況で即死しなかったのは奇跡だと言っていた。だが、不自然なことに、彼の再生力と生命力は異常なほどだった。

この重体で、なんと2ヶ月で復帰したのだ。

まるで何事もなかったかのようにだ。

そんな事も含め、彼女は事件直後以降の彼を知らなかった。


 2059年9月28日12時15分。

彼女と永龍和真は学校の屋上にいた。

呼び出したのは、鬼塚百合恵その人だった。

用件はもちろん告白だ。

結果は相思相愛で成功。無事二人は恋仲になったのである。

しかし、彼女が勇気を振り絞ったのには訳があった。

 彼女の所属する株式会社ONiDUKAの企画新案提供部門の京都本社への移動が決まったのだ。そのため、彼女は当日中に京都に引っ越さなければならなかった。その影響もあり、せめて今まで隠してきた気持ちを一気に解放したい。と、告白を切り出したのだ。そしてその日の放課後、事故にあった。


 事故直後、多少のイザコザはあったものの彼女本人が無傷だったこともあり、そのまま永龍の生死も確認できず、彼女は京都へと2日ほど遅れてだが、旅立ってしまった。

この事は2年間ずっと彼女の胸中を蝕み、苦しめてきた。勿論、調べようと思えば調べられる程度の情報ではあるが、彼女の父がそれを許さなかったらしい。

それでもこっそり調べた事のあった彼女だが、得られた情報は和真が入院し、たった2ヶ月で復帰したと言うことだけだった。

そして何故か和真との関わりを絶とうとする父をそっちのけ母を説得した彼女は高校入学に合わせ引っ越す事を決めたのだった。

 そして高校入学。ここで彼女は事故以来初めて永龍和真と再会する。

あまり変わらない容姿。当初と比べて落ち着いた印象の彼に、彼女は心を踊らせて話しかけた。


しかしそこに、鬼塚百合恵の知っている、思い続け、愛し続けた永龍和真の姿はなかった。


君は? この言葉は彼女を絶望させた。

ヒリヒリと胸の奥の方から湧き出してくる悲しみと今にも溢れ出しそうな涙を堪え、その場に崩れ落ちる。

こういう事だったのか。生きているだけマシだったかもしれない。

そう彼女は落胆し、心配をかけてくる彼にさらに胸を痛めながら人違いだと嘘をつき、その場を立ち去った。こうして彼女の2年越しの再会と、高校の入学式は終了したのだ。ーーーーーーー




 鬼塚百合恵は昼休み、決まってすることがある。

それは図書室での読書だ。

諸君は彼女のイメージから、小難しい本でも読むのだと思うだろう。しかし実際彼女が読むのはライトノベルだけだ。特に好きなのは、役50年ほど前にブレークした作品たちだ。

BAO(ブレードアートオンライン)、Reデロ(Reデロリアンから始めるタイムトラベル)、このさい(この最高な世界に祝福を)、とある(とある魔法の禁忌辞典)は、彼女の中ではラノベ四天王として名高い。

そして、この習慣を気分転換と反省も踏まえて実践するべく、下品な友達になることを要求してきた少年を殴り飛ばした帰りに彼女は図書室に立ち寄った。

習慣ではあるが、少し気持ちを落ち着かせたかったのだ。


パラパラパラ....


本当に読んでいるのか疑うくらいの速度で読み進めていく。

熟練されたライトノベルリーダーは1p20〜30秒余りで読んでしまう。しかし彼女は1p6秒弱で読み終える、まさに超人である。

しかし、今日の彼女はどうも早く読む気にはなれなかった。

 

最愛の想い人を入学式以来顔も合わせず、影から見つめている事しか出来なかった彼女は、彼といざ面と向かって話すとなると、あたかも初対面かのような対応をしてしまい、自分が何を言っているのか分からなくなりかねないのだ。オマケに昔の自分を覚えていない彼にどのような性格で口調の人物だと捉えられるべきかが分からず、ツンデレっぽかったりお嬢様っぽかったりもうバラバラなのだ。そして今のところ彼女自身の自分への印象は最悪である。こんなぐちゃぐちゃにこんがらがった自分の、


頭を整理するためラノベを読む。


という習慣はあまりに向いていないことのようにも思える。

しかしこのままでは拉致があかない上、せっかく苦労して彼とクラスを同じにしてもらった意味がない。


パタンッ


本を音を立てて閉じると、彼女は椅子からゆっくりと立ち上がる。そして何かを一直線に見つめるかのような、凛々しい顔立ちで勢い良くその場を立ち去った。

すると、周りで彼女の様子を観察していた、数名の自称百合恵親衛隊一行から、オォ....と控えめな響めき(どよめき)が上がる。

そんな事は慣れたと言わんばかりに気にも止めず、コツコツと上履きの音を立てながら、鬼塚百合恵は己の教室へと足を急がせた。....



行間貳。永龍 和真(ながりゅう かずま)


永龍和真(ながりゅうかずま)16歳。男。

2046年4月28日生まれ。身長168cm、体重55kg。左利き、童貞?

 日本一の名家、金剛家の長男として生まれる。3歳年下の 義妹と2歳年下の妹、3歳年上の義兄がいる。

 実父は、実母である金剛 琴葉(こんごう ことは)の兄、金剛 嵐(こんごう あらし)である。

近親相姦であることに変わりはないが、金剛家は伝統的に一度も他の家系の血を交えたことがない。

しかし、そんな家系の当主であった金剛嵐は生まれつき病弱で、長女の出産を見届けた直後に脳梗塞で突然死している。(記録上)

 その6年後、母である琴葉は“天下三大名家”の一つである、永龍家の当主、永龍 剛城(ながりゅう ごうき)と結婚する。

義父である剛城も、4年前に妻を亡くしているが、息子と娘が一人ずついたため、和真には義理ではあるものの兄ができ、更に二人目の妹が出来た。

 義兄である、永龍 大和(ながりゅう やまと)は非常に彼を毛嫌いしており、家庭ではなるべく顔を合わせないようにしている。それに義妹である永龍 穂乃火(ながりゅう ほのか)も毛嫌いとまではいかないが突然できた血の繋がりのない家族に戸惑っていて、和真の実妹 美葉(みは)の事は嫌っているみたいだ。しかし何故か和真だけには心を許しており、よく買い物に誘ったりしている。かと言っても決して仲がいいと言えるほどでもなかった。ほとんど大和と穂乃火は父である剛城の仕事場について行き、帰って来るのも夜遅くだし、共に過ごす時間がある事もごく稀だった。

 義兄 大和が彼を毛嫌いするのは和真の優秀さと永龍家の家督問題とが関係しているが、和真は永龍家や、その他三大名家のことなどは、事故をきっかけに何もかも忘れている。

 それに彼は非常に運動に長けており、子供の頃から日本でもトップクラスの選手だった。

 4歳から剣道を始め、10歳の夏に日本2位。

中学1年で体操部に入り、冬の大会で全国4位。

中学2年で陸上部に転部し、事故を乗り越え卒業まで続ける。そして高校に入ってからはずっとアウトドア部に所属している。(アウトドア部とは、主に登山やキャンプをする部だ。)

趣味として、エアライフルをやっているというのは、また別の話だが。ーーーーーーーーーーーー












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