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秋の桜子詩集

雨降る夜に我は立つ

作者: 秋の桜子

 吹き荒れる風が、全ての音を消し去って行く。


 夜半、降りしきる太い雨が彼女率いる者達の、気配を奪い絶好の好機をあたえる


 隣国を見下ろす国境(くにさかい)の山の上、数名の武士と共に仇を討たんと、一人の女性(にょしょう)が憎悪を込めて、崖の上から見下ろしている。



 ――丈なす髪は後ろで束ね、しどどに濡れるもいとわない。


 綺羅なかんざし、鮮やかな打ち掛け、紅や香木、それらを全て捨て去って


 今はうって変わって、裾丈短な黒き着物を身にまとい、


 肩に羽織るは、先に逝きし夫の形見の長羽織、


 白き右手に握りしは、白刃きらめく伝家の宝刀


 方や左に握りし物は、生まれて三月(みつき)で世を去った、愛しき我が子、吉祥丸の柔し髪。


 隣国、加太(かだ)の裏切りで焦土と化した紗世の国


 夫が護りし紗世の国、今は民も配下も滅びの寸前


 城が襲われしその時に、手練れの配下の者達と、嫡子と共に逃げるよう


 夫が隙を作りて、外へと送り出された迄は良かったが、


 わずか生まれて三月(みつき)の幼子は、


 冬の逃避に耐えきれず、二夜ともたず天に逝く


 おのれ許せぬ、我が祖国、生まれし国に攻めいられ、夫も我が子も、配下も民も


 我の全てをうばいし加太(かだ)の国。血を分けし、兄が治める加太(かだ)の国。


 我が手に残る配下の者は、僅かな数しか残って無いが


 生まれ育った加太(かだ)の国、城に忍び込む事など、我にとっては容易い事。


 今宵、叩きつける雨脚と、辺りを巻き上げる突風は、神が我らの味方となっている証の天候……



「お館様、出立のお言葉を」


 一人の武士が、今は亡き夫の名前を名乗っているが、かつて皆から、奥方様と呼ばれていた彼女に声をかけてきた。


 その声に、わかった。と、短く闇の中で彼女に膝まずき、指示を待つ者達に答える。


 そして降りしきる空を見上げた後に、彼らに向き合う。闇に慣れたのか、彼らの様子ははっきりと見て取れる。


 そしてそれは、彼らも同じ事、配下の者の目の色に、復讐の光が灯っている、


 それをしかと見た彼女の瞳にも、激しく燃え立つ紅い炎が宿っていた。


 そして彼女は宣する。仇を討つべく、出立の時が来たことを


「敵は!ただ一人!我が兄、国主のみ!いざ参らん!」





















 






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