(2)
あたりを見渡すが、目的地にも近づいている気配もないし、相棒の言う、美味しそうな香りの根源もわからない。竹に囲まれたなかで、視認できるのはひどく愉快そうな相棒だった。
しいて言うならば、青々とした竹に囲まれ、マイナスイオンなんかが充満してそうな雰囲気だが。
「仕方ない。とりあえず、その香りから確認してみるか。」
ここに突っ立っていても、なにも変わらないし、と気合を入れなおすように、重い鞄を背負いなおす。その際、ガチャガチャと音を立てていたけれど、気にしたら負けだ。
さて、香りのもとはどっちだろう?と後ろを振り返ると、そこにいるはずだった相棒は既にいなかった。
「あいつッ!勝手に!」
足元の小石を蹴る。蹴った小石は竹にあたり、小気味いい音がした。目を離すといつもこうなんだから、とか自分の立場をわかっているのか、とか色々と文句が浮かんでくるが、言う相手は既におらず、見つけたら只では許さんと意気込む。が、口で勝てたことがないことを思い出し、がっかりと肩を落とす。
「しょうがない、探すしかないか。」
一人置いていかれたショックを隠すように、先ほど背負いなおした鞄を足元におろし、中から蚊取り線香状ものを取り出す。渦の中心に火を灯すと、一気に煙がたちこむ。右手の薬指に針を刺し、血を一滴、線香にたらす。すると、煙が一筋、竹林の奥へと延びてゆく。煙を辿った先に相棒がいるのだ。
いなくなってから時間が経っていないから、そこまで遠くへは行っていないはずだと、再び重い鞄を背負う。線香を手に持ち、さっそく煙の後を追う。
ざく、ざくと歩く音が竹林に響く。
サァーと風が吹くと、カラコロと竹の当たる音がして、竹林が生気を帯びるように、新緑が視界いっぱいに広がり空が遠ざかる。竹の香りがいっそう濃くなった。
「こんなに綺麗な竹林なのに、ここも今年で見納めか。」