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式部古書店  作者: すゞか
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(1)

分け入っても分け入っても青い山


ふとそんな俳句を思い出した。

いくら歩いても竹林(ちくりん)。そんな出口のない迷路に迷いこんでしまったような状況に、思い出すのも無理もない。


周りを見渡しても、ぐるりと一面竹だらけ。

かぐや姫でも出てきそうな、昔話によくありそうな竹林だ。風がそよぐと竹がしなり、葉が擦れて涼しげな音を立てた。


久々の依頼がこんな平和でいいのだろうか、いつもならこの辺りでトラブルがやってきてもおかしくはないはず…。しかし、そんな僕の杞憂を知ってから知らずか、隣を歩いていたはずの相棒はどんどん林の奥へと姿をくらまそうとしていた。


「おーい、待てって」


汗ばんだ額を拭いながら急いで追いかける。


「なんじゃ、いつまでそこにいるんだ」

振り返った相棒のその目は生き生きとしていて、早く早くと僕を急かす。

「なんでそんなに張り切ってるんだよ」

「張り切っておらん、お前さんが遅いんじゃ」


そう言って、相棒はまた歩きだす。相棒はああ言ったが、浮き足立っているのは間違いない。さっきからスキップしているんだもの。


「しかし、この竹林、どこまで続いてるんだ?もう2時間は歩いてるだろ。もうそろそろ目的地着いてもいいころだと思うんだけど」

「そうさなぁ、そのうち着くのではないか?」

「お前、1時間前にも同じこと言ってたぞ」

「そうだったか?」

「おいおい、しっかりしてくれよ」


僕が呆れたように言うが、相棒ちっとも気にした素振りもみせず、前を向いたまま、僕に言う。


「しかしだな、お前さん。竹林の向こう側にうっすらと民家が見えるんだが、一向にたどり着く気配がない。そろそろ疲れてきたわい」


どうやら僕だけじゃなく、相棒も疲労気味らしい。これ早めに決着を着けて、日が暮れる前に帰らねば。と考えるが、このままじゃ体力だけが削られているだけだ、とそばにあった岩に腰掛け、背負い鞄をおろす。


「う〜ん。うっすらと民家は見えてはいる。だけど、たどり着けない。今まで歩いてきて人っ子1人いない。何か気づいたことないか?相棒」

相棒を見ると、なにやら難しそうな顔をしながら、

「美味しそうな香りが漂ってくるぐらいじゃ」

と答えた。

「食いしん坊か。美味しそうな香りなんてしないじゃないか」とつっこんでみるが

「お前たち人間には分からん匂いだよ」

と相棒は、くんくん、と嗅ぐような仕草をして見せた。



人間には分からない匂い。つまり、人間ではないモノの匂い。妖怪や幽霊などの類いだ。

今回ここへ赴いたのも、その類いの調査及び回収をするため。


「てことは、既に巻きこまれていたとうことか」

がくり、と目に見えて落ち込む僕に、相棒は「気づかなかったのか」とでも言うように、僕の頭をちょん、と小突いた。

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