表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ミステイク

作者: シロアリ

またアホ担任が言ってるよ。そう頭の中で呟きながら朝のホームルーム、担任が熱くいじめに関して語っているのを私は聴いていた。夏が近づいてきて湿気も多くなってきた6月。ただでさえ暑いのに朝からやめてもらえないだろうか。そしてそんな熱い担任がいるクラスに限っていじめがあるというのは皮肉なものだ。教壇の目の前、担任の死角となっているであろう場所の席に黒崎千夏は若干首を俯きながら座っていた。彼女は現在私を含めたクラスの女子大半からいじめを受けている。新学年が始まり、クラスのカーストも形に表れるようになった頃、黒崎はいじめのターゲットとして上位層から目を向けられた。いわゆる中級層の私はいじめに加担すること以外の選択肢は実際なく、この現状に至っている。別に嫌いという訳では無いがいじめないと次は私が。そんな事を思ってしまう。

かといって黒崎以外は仲が悪い訳ではなくクラスメイトとしての関係をうまく築けている。

ある日友人の桜子が笑いながら「今日体育服忘れちゃったんだよな」と教室で固まっていた私達に話しかけてきた。それに対し優子が「黒崎の借りればいいんじゃね?」と敢えて黒崎に聞こえるような声で言う。「クロサ菌(いつからか黒崎の身の回りや黒崎自身をクロサ菌と呼ぶようになっていた)が移るよ(笑)」と私も続く。黒崎は無視を決め込んでいるのかピクリとも反応しない。少し間を置いて薫が「教師に体操服借りてるのバレたら色々と面倒って聞くし他の方法選ぶ方が賢いと思うけどな」と桜子に提案する。桜子は不満顔を見せながら渋々薫の言うことに従いその日の体育は生理を理由に見学した。今日の体育はよりによってソフトボール。暑い、暑いにもほどがある。早く過ぎないかと思うだけの時間が流れていく。今日の見学者は桜子と黒崎のみ。2人の距離は近くもなく遠くもなく微妙な距離感を保っていた。私がショートでハーフバウンドのやや鋭い三遊間よりのゴロを処理した時、横目で見えた桜子が笑っているように見えた。何か面白いことでもあったのかと桜子に授業後聞いてみると優子が割って入りニヤケ顔で「黒崎今日も独り言やばかったね」と言った。あぁそういうことかと1人で納得していた私の横で桜子が体育の時間であった黒崎のエピソードを語り始めた。私自身黒崎と直接話したことはないがいじめられっ子の典型的な性格だそうで普段から感情を表に出したことは滅多に見ない。

そんなことがあった放課後、私は帰る道が他のクラスメイトとは違うため1人で帰っている。しかしその日は丁度道路整備のため通行禁止になっており遠回りして帰っていた。この道なら桜子たちと一緒に帰れたのにと思いながら6月というのにギラギラと輝いてる太陽に殺気を覚えながら歩いてると道の横にあるコンビニに溜まっている桜子たちを見つけた。声をかけようと向かおうとした時、私はそこにいるはずがない黒崎がいることに気がついた。私は混乱し、黒崎を呼び出して何かしようとしてるに違いないと頭では考えていながらも体は反射的に物陰に隠れるように動いていた。ここからでも若干向こうの声が聞こえる位置にいたため耳を澄ましてみる。「ほんと毎日毎日暇っしょ千夏」桜子が楽しそうに誰かに話しかけた。千夏なんて名前いたか?と私は思いながら反応を伺っていたら桜子の問いかけに応答したのは「クソほど暇(笑)なんでうちがジャンケンに負けなきゃいけないだよ」と楽しそうに話す黒崎だった。私はその時まで黒崎の下の名前が「千夏」だということをすっかり忘れていた。しかしなんで桜子が黒崎のことを下で呼んでいるのか私には理解出来なかった。状況を把握できてない私をそっちのけで薫が「1発負けだったもんな。ありゃ同情するわ」と黒崎に声をかける。「にしてもアイツなんだよ。何も言ってないのに私達に付きまとってくるし。まぁ自分はいじめられてないと思って過ごしてる姿は滑稽だけどな」「ほんとそれ!私がいじめられてる振りしてる時笑うの堪えてずっと俯いて我慢してる」「ほんとあいつ消えて欲しいよな。そろそろいくか?」そのような会話が止まることなく続いてるのを私は呆然と立ち尽くしながら聴いていた。会話の話を聴く限り「アイツ」とはどう考えようとも私である。いじめられていたのは黒崎ではなく私だったのだ。ハメられた。今は悔しい思いよりも早くここから逃げたい。何も聞かなかったことにしたい。早く明日になっていつも通り話しかけて反応が返ってきて安心したい。…、反応が返ってくる?今思い返せば私の発言に対して言葉が返ってきた事があっただろうか。その事を考えた途端またも体は勝手に家の方に走り出していた。早く帰りたい。どうにかなってしまいたい。そう思いながら全力で逃げていたら後ろの方から4人ほどの声で「死ね!」と叫んでいたのを聞いて私の青春は幕を閉じた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ