黒龍が来た そしていきなり回想
「黒竜が出て来た、、、」その言葉でギルドは騒然とし、騒ぎが次第に大きくなって来る。
ある者は、「何言ってるんだ。」と言って駆け込んで来た男に怒鳴りつけ。またある者は、「もうだめだ、、、」と俯き涙する者、様々な反応がギルド内は阿鼻叫喚である。
「やかましいよ、小童ども」
その声に周りはその主に視線が集まる。
俺は、「誰だあのおばさん」と一緒に視線を向ける。年齢は40〜50代中頃、背は170前後、肩まである白髪を後ろで束ね顔には年相応な皺があるが目尻が鋭く、その年代の女性と比べても芯がしっかりした立ち姿が堂々としている。グレーの瞳を階段上から周りを睨むようにギルドホールのエントランスに降りて来る。
「ギルマス」
ギルド職員の1人がその者の正体を教えてくれた。
「ギ、ギルマス、実は先ほど、、、」と説明しようとさっきの職員が喋り出すが。
「あぁ、いいよ二階の私の部屋にまで聞こえてたから」
素気無く返された。
「全くあんた達はそれでも冒険者かい?この街にいるんなら危険と隣り合わせなのは分かりきった事だろうが。常日頃から魔物が蔓延る神獣の森に挑んでる冒険者はその程度なのかぃ」
と、ギルマスから煽られると口々に「いや、だが黒龍は無理だろ」「そう言うが、今回は」とか、愚痴をこぼすが、ギルマスがその人達を睨み付けると徐々に騒ぎが治り始めギルマスに皆視線を集中させる。
「よし、そんじゃぁ全員マニュアルは読んでるね。今回はSS級対策で行くよ」
と指示が飛んだ。その声に皆自分が何をやるのか解っているのかそれぞれの仲間に声をかけながらギルドから出て行く者ギルドの奥に入って準備をする者でだんだん人が少なくなっていく。
『ん、SS級対策⁇』なんだそれと、何もわからない俺はポツンと立っているしか無いのだが、そんな俺にガバドさん達が話しかけて来た。
「おう、俺達も準備に取り掛かるぞ。ってそういやお前はまだギルドに登録する前だったな」
と足早に出口に向かいピタッと止まり振り返りながら聞いて来たガバドさん。
「そうですね。確かに登録してもいないのでは防衛戦に参加させるのも不味いですかね」
顎に手を添えて考え始めるブレさん。
「え、でも彼の実力なら何とかなるんじゃ無いですか?」
そう言って一緒に連れて行こうとするセウスさん。
それぞれが考え始める。
「あんた達は何チンタラやってんだいさっさと準備に入りな」
固まって話し込んでた俺達4人に怒鳴り声をあげ近付いて来たのはギルマスだった。
「今は一分一秒争う一大事だよこんなとこでモタモタ何やってんだい」
「あ、すみませんギルドマスター実は彼なんですけど、、、」
謝りながら素早く状況説明を始めるブレさん。
「成る程、そんじゃぁそっちの小僧はまだ登録前だって事だね。なら話は簡単だ、さっさと街の人たちと一緒に避難するんだね。例えそれがあんた達と実力は変わらないのだとしても、防衛戦の事も知らないようなただの素人が加われば流れを乱しちまう。そんな奴を戦列に加える訳には行かないよ。話は異常ださっさとあんた達は準備に取り掛かりな」
ガバドさん達にさっさと行けと指示を出しギルマスも自分の準備とやらをするのか二階足早に向かってしまった。
確かにSS対策などと言う物や防衛戦など何が何だか知らない俺が加わった所でおそらく流れや輪を乱すものになってしまうのであれば参加せずに一般人として避難させた方が無難ではあるし今はそんなここを考える時間も惜しいようだ。
「んー、しょうがねぇがここはギルマスの判断に従うしかねぇな、悪いがタツマ中央広場から避難用の馬車が集まっているからそれで避難してくれ、間に合わないようなら領主の館も避難場所として解放されているからそっちに言ってもいい、だが今回は街の外に避難した方が良いと思うぞ。もし互いの運が良けりゃまた会おう」
ニカっと笑い肩をバンッと叩くガバドさん
「タツマくん、ガバドが言うようにここでお別れです。余り助けてもらったお礼は出来ませんでしたがこれを受け取ってください」
俺の手に金貨数枚を握れせながら謝るブレさん
「ま、余り話もできずにサヨナラってのも寂しいですけど巡り合わせが悪かったと思って切り替えていきましょう」
軽く笑って手を振るセウスさん
ガバドさん達はそう言って出口へ向かう。
「あ、あの何でみんなで逃げないんですか勝てそうも無い戦いに逃げずに挑むなんてどうかしています」
思わず口にした問いにブレさんが答えてくれた。
「それは、冒険者だからですかね。冒険者登録をする時に説明を受けるのですが、、、」
その理由とはかいつまんで説明すると、ある一定の条件下でのみに適応される制度で街の防衛と括っても他国からなどの戦争では参加の義務は無い、ただ魔物、モンスターの氾濫、所謂モンスターピートやキング種、ジェネラル種数頭、など領主の衛兵だけでの制圧が難しい時にギルドへの要請があるのだとか。勿論その場合でも冒険者全員が駆り出されることは無いのだがS、SS指定対策の場合に限っては例外らしい。参加除外されるのは一般人、一定金額お金を払っている冒険者などだがいつ来るかもわからないものに払うより自分の装備や食事、生活に使う者が殆どで滅多にいない事、金額自体は高くは無いだが安くも無いそれならと言う理由だ。払っていたとしても払えるだけの余裕がある者、高ランク冒険者だがギルドからの強制指名依頼として召集されるのでこのへんも余り意味がないらしい。だがメリットはあると言う、防衛成功もしくは避難成功や参加するだけでも街や国、教会、ギルドから特別褒賞が与えられる。もし死んでしまってもSS指定は家族縁者にも遺族補償が貰えるのだとか。
「そう言う理由で私達は行かなければ行けないのですよ。ただS級指定ならまだしもSS指定となるとほとんどの冒険者は参加した事がないんじゃ無いですかね。なんせ私の記憶が正しければ数十年は出されていない物でしたから誰も自分がその当事者になるとは思いませんよ。なので今回は人生最大の舞台に立たされているのですね。さて長く話し込んでしまいましたが、私達はもういきますね」
力無くやれやれと微笑みだが瞳の奥は覚悟が決まった目をして視線を出口に向けた。
その後ろ姿に何も言えずただ見送る他なかった。
〜〜〜〜
さて時間は進み30分ほど経った頃
ガバドさん達を見送りその後馬車が集まっている広場に向かわず俺は隠密、気配遮断などを駆使して黒龍が来る方角の防壁の上にある櫓の屋根の上に来ていた。
「何みんなこれで最後だ、もう死ぬしか無いんだみたいな顔でいってんだ?だって黒龍だぞあの黒龍」
と、ここでいきなり回想
・・・・・
半年ほど前じーさんに言われ森の主達と戦うために広大な森やら草原やらバカ高い山やら火山やらだだっ広い池などをさまよっていた時のこと。
そいつと出会ったのは登るだけでも一苦労のバカ高い山に来た時だ。
これまでの修行の成果でサクサク登ってはいたがさすがに疲れ岩に腰掛けた。最初は鬱蒼と生い茂る木々が辺りに広がっていたがある高さになるとは草は生えているが岩肌の面積が8割を超えた辺りでひと息入れていた。その時、何の前触れも無く自分の周りに影がさした。最初は雲かと思ったが上空に気配を感じ一気に警戒態勢を取り上空を見つめる。
「GROOOOOO・・・・」
雄叫びを上げながら飛来するそれは黒い鱗に雄々しく翼を広げ頭から尻尾までの大きさが50メートルはあろうドラゴンだった。
頭上から躊躇いなく突っ込んで来るそれを余裕を持って回避するが突っ込んで来た衝撃で岩が粉砕され礫が俺にあったて来る。
普通そんな物が当たれば怪我では済まないがこれも特訓の成果でなのか余りダメージが無い。
視界が晴れドラゴンを見ると俺がいないのが不思議なのか突っ込んだ先を見ている。俺がの存在を確認するとまた「grrrr、、、、」と鳴き翼を広げ軽くホバリングをしたと思ったら再び飛びかかって来る。
さすがに回避した先が近かったのか翼を広げた状態の相手では左右に避けても逃げられないと悟った俺は、覚えたての「無属性魔法《飛行》」で少し高めにジャンプする。だがあまりこれは得意では無いので飛び続けるわけにも行かずドラゴンの背にしがみ付き「無属性魔法《魔糸》」と言って魔力で出来たロープをドラゴンの首に回し何とか振り落とされないように張り付いた。
ここで俺の戦闘スタイルなのだが基本素手やナイフ、魔法を使った中、接近戦闘タイプである。これは戦い方を教わったじーさんのせいでもあるのだが。
じーさんは魔法を纏って戦うタイプなのである。おい賢者とツッコミはしないものの何故かと聞けば魔法を撃てば被害がとんでも無いことになる為だとか、なら手に持って直接ぶつければよくねっと考えついてから試行錯誤の末たどり着いたのが《魔法天衣・破軍》なんだとか。
簡単にまとめると極大魔法を体に留めて直接相手を殴る物だ。自分にもダメージが来そうなものだが身体は別の魔法でガードしつつやるから大丈夫だと言われた。
それで納得するかと言えばノーと答えるのだが、その時は拷も・・ゴホン、訓練の最中だったのであまり気にしないことにした。
さて背中に張り付きドラゴンの鱗に触って見て解ったのが『これ攻撃通らなくね、、、』と思うほど硬さと柔軟性があった。
全く正反対の言葉だが並みの剣では刃が立た無いほどの硬さはある。その中にしっかりと生物の柔らかさも感じた。さらに厚みのある鱗では何度か拳を打ち付けても打撃が通じる気配がない。
火魔法《火炎弾》を翼にぶつけてもビクともしなかった。
そんな中、今も絶賛飛行中のドラゴンさんは俺を振り払うようにアクロバットな飛行をしつつ何やら楽しんでおられる。
目的変わってねーかこいつと考えたが今はそれどころでは無い。
打撃、斬撃、攻撃魔法、撒いて逃げる事もダメとなると如何にかしてドラゴンを身動き出来ない状態にしなければならない。打開策はあるにはあるが賭けではある事も否めない。
まー選択の余地がないんだけどね、と乾いた笑みを浮かべ腹をくくる。
「うっしやるか、無属性魔法《磁石》×30」
そう言ってドラゴンに魔法をかける。ドラゴンに何ら変化は無いが確かにドラゴンには魔法がかかっている。かけられた方も何も感じないのか飛行を続けている。
最初に出会った所からさらに山の山頂付近にまで飛んで来たドラゴンから、ほぼ岩しかない山に飛び降りる。着地前に「無属性魔法《飛行》」を使って勢いを殺しゴロゴロと転げながら着地した。
いきなり離れた俺に気付きホバリング状態で俺を空高くから見つめるドラゴンは「grrrrrrr、、、、」と鳴き再び突っ込んで来る。
それを待っていた俺は周りの岩に魔法をかける。その魔法は「無属性魔法《磁石》」だ、さっきドラゴンにかけた魔法と一緒である。正確には違うのだが、ドラゴンにかけた魔法が磁石のN極とすれば周りにかけたのはS極とゆう感じだ。なので周りにかけた岩は質量としてはドラゴンが重いのでドラゴンに引き寄せられる形になってしまう。
ドラゴンに向かって飛んでいく岩を俺からの攻撃と思ったドラゴンは軽く避けれると思ったのか翼を羽ばたき上昇する。それで回避できたと思ったのか視線は俺に向いている。
だが上昇した時にタイミングよく腹に岩たちが張り付いた、ドラゴンは一体なぜと考えたかは知らないが一瞬動けなかったその隙をついて俺は周りの岩に「無属性魔法《磁石》」をN極、飛んで張り付いたらS極と交互に飛ばしてはくっつけ、飛ばしてはくっつけを繰り返した。そうするとドラゴンは身体中の岩で段々身動きのできない達磨状態になった。翼も尻尾も岩と一体化して最後は力尽き地面にゴロンと倒れ込んでしまった。
かすかに鼻先が出ている状態になったドラゴンだったものを見つめさてこれからどうするかと考え始めたその瞬間、鼻先のあたりから魔力の高まりを感じた。
「あっ、くそ、無属性魔法《魔糸》」一瞬でそれをドラゴンのブレスだと悟った俺は口のまわりを魔糸でぐるぐる巻きにして口を開かなくした。口が開けないのであればブレスも吐けない安直な考えだがそれは見事に正解だったようだ。
そこでようやく抵抗しなくなったドラゴンを見ながらこれどうしようかと再び考え始めるのだった。
「おやおや、貴方はこんな所で何をしているのかね?」
後ろから何の気配もなくいきなり声をかけられた。