序
冬空の下、眼下に広がる街明かりは私を憂欝な気分にさせた。吹き抜ける風もなく、張りつめた寒気が私の孤独を煽っている。家々に灯った橙の明かりが途方もなく温かで、期待に満ちていて、私は苦しい。
クリスマスは特別な日だろうか。大人ぶった空気に毒されてしまった独りの私には、単なる冬の一日にしか思えなくなっていた。
しかし、だ、しかし。
今日は特別な夜にしなければならない。
子供はサンタクロースが忍び足で部屋に入るのを待っているだろう。そう、薄目を開けて待っている。その夜だけ偽名を使う両親の来訪に期待するのだ。いや、正確に言えばプレゼントを待っているだけだろう。
私だってサンタクロースが来るのを待っている。プレゼントではなくサンタクロースを、だ。その手に何も持っていなくたっていい。もっと言えば、サンタクロースでなくたっていい。誰かが私のために来てくれる、それだけでいい。それだけで私はいくらか楽になる。
かじかむ手を擦り合わせて、一週間前に出した手紙を想った。
読んでくれただろうか。きっと、読むだろう。なにせ、差出人が私なのだから。
腕時計を見ると、時刻は深夜二時を回っていた。