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異世界の学園がもはやギャルゲー  作者: ヘルプ
第2フェイズ 隣の教室編
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対峙 ロクヌイ・ロータス ⑥


「なんだ、これは……?」


朝のHR。


右隣のルティアが来る前に、始業チャイムが鳴り、ベリエール先生は教室へと入ってきた。教壇に向かいながらベリエール先生はロクヌイを一瞥し、一瞬、何か言いたげな表情を見せるが、特に何も言わずに教壇へと立った。

ベリエール先生が教壇に立つと同時、ロクヌイは軽く息を吐いて立ち上がると、教壇を隔てたベリエール先生の向かい側まで歩いていき、無言のまま手に持っていたスケッチブックを差し出した。

そのスケッチブックを手に取りながら、怪訝な表情でベリエール先生はなんだこれは、とロクヌイに聞いたのだった。


クラス中の視線が教壇へと集まり、教室が静まりかえっているが、ロクヌイはまったく気にしていないようだった。


「中身を見ろ」

ロクヌイは鷹のような目で睨みながら言った。


「……」

ベリエール先生は訝りながらも、おそるおそるそのスケッチブックを開く。


何も言わずに、何ページかめくった。


「……」


何も言わずに、スケッチブックを閉じる。


「……見たぞ。……それで?」


間を開けて、ベリエール先生が重々しく口を開いた。

教室内が重苦しい。


「……それでじゃない。感想を聞かせろ」


ロクヌイは親に刃向かう子供のように、立ち尽していた。


「なんだ。先生の言葉はもう受け付けないんじゃなかったのか?」

「……」


ベリエール先生の的を射た発言に、ロクヌイが黙る。



「……あれは撤回する」

「……」


ロクヌイの言葉に、今度はベリエール先生が黙った。


ベリエール先生は呆れたように大きく息を吐くと、真剣な眼差しで眼前の生徒を見返した。



「……なら言わせてもらうが。正直、私にはお前のしたいことが、よく見えない。刀のよさを伝えたい、というお前の志は尊重するが、確かお前は前の進路面談で、物語絵師になりたいとか言ってなかったか……? それに、その前は父親の跡を継いで、陶芸家になりたいとも言っていただろう。そんなに毎度毎度、やりたいことをころころと変えているようじゃ、信用しろと言われてもどだい無理な話だ。……どうせお前は、次の面談でも、やりたいことを変えるんだろうな」


「……くっ」


ロクヌイは黙り、下を向いた。

そしてスケッチブックを先生の手から引ったくると、悔しそうに自分の席へと戻った。



「……」


俺はその一部始終を、自分のことのように胸をざわつかせながら見ていた。

俺も他人事ではない。

いろいろなことに興味を持てるロクヌイとは違い、俺にはやりたいことが一つもない。

空っぽだ。


前の世界なんかじゃ、俺が働くなど、遠い未来のことのように思っていた。

出来れば大人になどならず、ずっと生徒のまま、いや、子供のままでいられればどんなに楽だろうかと。

そんな何もかもが面倒な気持ちで、高校生活を過ごしていたような気がする。

とはいえ、高校生活が楽しかったかと聞かれれば、まったくそんなことはなく。

むしろ、今すぐにでも引きこもりたいという意志と、家にいたくないという意志がせめぎ合い、背反しながらの毎日だったが……。





HR終了後。

ベリエール先生は教室を出て行き、クラス内はざわざわとざわつき始める。


左隣のロクヌイは落ち込むようにこうべを軽く垂れ、目を前髪で隠していた。


「……」


声をかけようとも思うが、なかなか言葉が見つからない。

俺がロクヌイを気にしていると、それに気付いたロクヌイが、頭を上げて俺を見た。

そういえば俺はまだ、どうして顔にあざや引っ掻き傷を作っているのか、聞いていない。


「……大丈夫か、その傷」


俺は朝の件とは、まったく別のことを口にしていた。

ロクヌイが若干驚き、次には顔を弛緩させる。


「……ああ。ちょっと昨日、木から滑り落ちてしまってな」

「……そ、そうか」



俺は木に登る、という高校生がやるようなことではなさそうな行動に、つまりながら、なんとか返答した。


どうして木から滑り落ちたのか。……そもそも、どうして木なんかに登ろうと思ったのか。


……俺とどこか似通っていると思っていた俺だったが、俺にも、ロクヌイの考えていることがよくわからなかった。



「心配、してくれたのか?」


ロクヌイが、片方の目で真っ直ぐに俺を見据えた。


「いや……」


俺は咄嗟に目をそらし、否定的な言葉を発してしまっている。


ロクヌイは俺の言動に何を思ったのか、今まで見たことのないような顔をして、俺を見て言った。


「優しいんだな……」

「……っ」


その言葉に、俺はまた引いてしまう。


……まただ。また俺は、優しいと言われてしまった……。今まで俺は、全然そんなこと言われたことがなかったというのに……。


俺が心臓をばくつかせたまま言葉を返さずにいると、ロクヌイはさてとと言い、スクールバッグを机に置いて立ち上がった。

まさか……。

俺は嫌な予感がした。


ロクヌイは再び俺を見ると、言った。


「私はしばらく、屋上に行く。ついてこないでくれるか」

「……?」


そう言ってロクヌイは、持ってきていたスクールバッグと刀を持つと、さっさと教室から出て行ってしまった。

ついてこないで……? 

俺にはその意味がわからず、戸惑う。

わざわざついてくるなって、逆に、ついて来い的な意味合いなのだろうか……?


俺がついていくか悩んでいると、キーンコーンカーンコーン、と1限目開始のチャイムが鳴り、ベリエール先生が入ってきてしまった。

ベリエール先生は空席のロクヌイとルティアの席を一瞬気にした後、起立、と号令をかけた。



そうして、わけのわからないまま、1限が始まった。



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