5限目 腹痛
「将来の夢。睡眠時の夢。はかないもの」
5限目。国語の授業。
ベリエール先生が俺の苦労など素知らぬ顔で夢について語っている。たまたま夢の内容が授業に載っていたからか、4限の進路面談の回想を交えながらいろいろ展開させている。
「みんな、夢と聞いて、考えることは人それぞれだろう。だが、お前達はあと2年もすれば学園を卒業しなければならないんだ。すでに将来について決めている者はいいが、まだ決めてない者や、あまりに現実からかけ離れていることを言う者は、もう少し現実を見て欲しい。自分の将来を決めるのは、他ならない、自分だ。そのことを、しっかりと胸に刻んで残りの学園生活を過ごして欲しい」
……などというようなことを言っている。俺と目が合う。……。
それは俺に言ってるのか、え?
「……」
俺だって、いろいろ考えているんだ。だがしかし、俺はこの世界で就職するのか? え?
どうなんだ……知らない……俺には、何もわからない……。
邪神がこの世界に勝手に連れてきて、この学園に通えと言ってきた……ということは、俺の将来は、邪神の手によって握られているということなのだろうか……?
だとすれば、俺の将来は、俺が考えることではないと言えるか……?
わからない……それと腹痛ぇ……。
ぐるるる……。
ぐーぐうるるるるる……。
腹が鳴るたびに、俺は息を止める。
胃を張らせ、音が鳴らないようにする作戦。
ぐーーーーぐるぐるぐる……。
だが鳴る。くそ、こうなったら、教科書で隠して弁当を隠し食いしてやろうか……。そうは何度も思うが、ベリエール先生がなかなか隙を作ってくれない。というか、こんなど真ん中の席じゃ、隠したところで即バレるレベル。
どうする……どうする俺……。どくん、どくん、どくん、どくん。
服の中に弁当を隠し、腹痛を訴えて保健室へ行く作戦を立てるが、なかなか行動に移せない。
「……」
ごくり、と唾を飲み込んでしまう。
今、唾を飲み込んではいけない。そう思っていたが、飲み込んでしまった。
腹の虫が、今にも過去最大の悲鳴を上げようとしている。
よりにもよって、そんなときに限って先生が黙る。
教室が静寂で満ちる。
10
9
8
7
6
5
4
3
やばい。
2
1
……うわ、やばい……死ぬ……。
「せんせ……」
ぐーーーーーーーーーーーーー「どうした、アーシャ」ざわざわざわ。
「……っ」
あ、危なっー!
後ろから聞こえてきた、アーシャの先生という声と先生の言葉によって、俺は九死に一生を得る。
腹を押さえて苦悶に表情をゆがめる俺の横を通り、ベリエール先生が中央最後て尾の席へと歩いて行く。
先生の言葉に周りがざわつき始める。
俺も腹を押さえながら後ろを振り返った。
見れば、アーシャがお腹を押さえて痛そうにしていた。というか、俺もそんな感じにしてたんですけど……。
アーシャには気づき、俺には目もくれないという……。
別にいいけどさ……。
「腹が痛いのか……?」
ベリエール先生が下を向くアーシャに心配そうに声をかける。
「……(コク)」
アーシャは何も言わず、うなずきだけ返した。
「保健室、行けるか?」
「……(コク)」
「そうか……。誰か、アーシャを連れて行ってくれないか?」
その言葉に、俺は反応する。
俺が連れていけば……そう考え、俺は手を挙げようとし……やめてしまう。
「はい」
アーシャの左隣にいた薄緑髪のミーモ・クレシェルが手をあげる。
「ありがとう。じゃあ、頼む」
「はい」
そうして、アーシャはミーモに連れられて保健室へと行ってしまった。
……。
そして、授業が再開される。




