帰る家が破壊されました
(起きろ……)
「んんー…………むにゃむにゃ…………」
(起きよ……我が息子……)
「…………――――?」
(起きるのだ……我が息子よ……)
「――――何だ?」
客室用の六畳間の和室部屋、暗闇の中で邪神の声が反復して聞こえてくる。
俺はその声によって目を覚ました。
上半身だけ起こし辺りを見回す。暗くてよく見えないが、邪神の気配は感じない。
(学園の外に出よ……)
脳内に直接聞こえてくる。どうやら、念力か何かで言葉を飛ばしているようだった。
「……?」
俺は足をついて立ち上がった。
「なんだってんだ……」
腹が減っていて立ちくらみがするが、何とか堪えて学園の外へと向かった。
靴を履き外へと出る。外は真っ暗だったが、『明かり』と念じると邪気眼が発動し周りが仄かに照らされる。
校門の外に出たところで、再び邪神の声が脳内に響いてきた。
(もっと遠くへ歩け……)
「……?」
鼻で大きく息を吐き、詮無く俺はそこからまっすぐに歩き出した。
しばらく歩いたところで、再び声が聞こえてくる。
(右へ行け……)
「……。やつは何がしたいんだ」
俺はやむを得ず右にまっすぐ進んだ。
そこでまた声が聞こえてくる。
(そこを掘れ……)
「……ここ?」
やる気のない態度と声を出し、地面を指さしながら声の主に聞いた。
(そうだ……)
俺は素手で地面を掘る。なぜか地面は柔らかく、そこだけ草が生えていないようだった。
掘り進めると、それはすぐに出てきた。
太い糸で編み込まれた土に汚れた袋。その中の物に俺は驚く。
「金だ……」
袋一杯に大量の金が入っていた。手から汗がにじみ出る。
「どうして、こんなところに……」
(我が埋めたのだ……)
「お前かよ……」
(ああ……そこには、お前が学園生活を送るのに困らないだけの金が入っている……)
「貰って良いのか……?」
(よい)
「それじゃあありがたく貰う……。……それで、どうしてお前は出てこない。今、どこにいる」
(我は天界の者に見つかった……今は他の世界に待避している……。……この世界に……我の居場所はもうない……)
「天界? どういうことだ。俺がお前の部屋に戻れなかったのも、それが関係しているのか」
(あの部屋は既に破壊した……。お前が我の部屋にいたという証拠を抹消するためにな……)
「……怖ぇこと言いやがるな……」
俺はつばを飲み込む。
(邪神である我と天界の者は仲が悪い……我は一度、数十年前の出来事によって天界の者から逃げ出している……)
「……」
(我はしばらくそちらの世界には戻らない……。住む場所は、新しく探せ……)
「そうかよ……。ていうか、他の世界に行けるなら、俺も帰れるんじゃないのかよ」
(お前はその学園に通うのだ……)
「なぜだ」
(よいな……我が息子よ……)
「……」
(では……よい学園生活を……)
……。
それっきり、邪神の声は聞こえなくなった。
「……くそっ」
闇が俺を見下している。
俺は草原の中でただ1人、掘り出した金の入った袋と共に立ち尽くしていた。