お姫様の肩を借りて帰る
「ふぁふふぇふぇ」
「……千夜様。また、しゃべれなくなってしまったのですか……?」
「……ごめん……喋れる」
放課後。俺はルティアの肩を借りて、昇降口にいた。何か得体の知れない物体に背中に体当たりされて気付けば意識不明。そして気付けば保健室で眠っていて、俺の身体は全身麻痺のよだれまみれ。俺の首には赤ちゃんがつけるようなよだれふきが巻かれ、目の前にはよだれのついたハンカチを持ったルティア。なんということだろう、俺はルティアに介抱されてしまっていたという……。とてもお姫様にやらせるようなものではないことを、させてしまっていたのだった……。
それはそうと、ルティアは目を覚ました俺に気付くと、俺の名前を呼びながら泣きわめいて、抱きついてきた。その後ナース先生が戻ってきて、俺の麻痺もなんとか治まってきたため、自力で帰ることにしたのだが、やはりまだ足が上手く動かない。
そこに責任感の強いルティアが私が送り届けますと名乗り出てくれ、ルティアの肩を借りてどうにか昇降口まで来たわけだが……。マジで俺はルティアに何てお礼を言ったらいいのかわからない。
「悪かったな……俺の介抱をさせてしまったみたいで」
俺は、昇降口で靴に履き替え、再び、ルティアの肩を借りながら、言った。
俺の体重が、華奢なルティアの身体に重くのしかかる。
「い、いえ……私が、もっと早く、『アレ』に気づけていれば、千夜様がこんな目に遭うことも、なかったのですから……でも、どうしてあんなところに……」
ルティアがけっこうきつそうに俺を抱えながら、言った。
アレ……。アレって、俺を全身麻痺にさせたアレか……。
……アレの話もしたいが、それよりも今、ルティアが、なんか、やばい……。
「大丈夫か……? 俺、重いよな……。無理だったら、言ってくれ」
「え……、そ、そんなこと……ありません」
明らかに無理してそうな声色で言われる。
「本当に大丈夫か……?」
「は、はい……このくらい、へっちゃらです」
言いながら、俺を抱えてゆっくりと歩き出す。
「……。でも、無理はしないでくれよ」
俺が言うと、ルティアはこくこくと頷いた。
ルティアが健気だった。
「私は、千夜様を、家までお連れする義務がありますから」
「そうか……。……ありがとな」
「はい……」
俺は、やっとお礼を言うことが出来た。そして、それを聞いたルティアは、恥ずかしそうにもう一度、こくりと頷いたのだった。
俺とルティアはゆっくり歩き、なんとか校門を抜ける。
校門を抜ければ、魔方陣が使えるようになる。と思ったが、そういえば俺は学園内でも魔方陣が……いや、学園内では使っちゃ駄目なんだったな……。それに、ルティアにも怪しまれるかもしれないし……。
「ありがとう。もう、ここで十分だ」
俺は重そうなルティアに言って、ルティアの肩から離れた。
「え……そんな……」
俺の言葉に、ルティアが置いていかれる子供のように悲しげな表情をする。
本当はもっとルティアに触れて……げふんげふん、なんでもない。
「千夜様……」
ルティアが待たされているペットのような瞳で俺を見る。
いやー可愛……じゃなくて。もう駄目だ俺は……。
「……」
「……」
なかなか、別れの言葉を切り出せない。ルティアもまた、何も言わずに、ただ立っている。
……。
そういえば、告白のこと、誤解を解いておいた方がいいだろうか……。解いて置いた方がいいよな……今言わないと、ずっと言えなくなって、うやむやになってしまうような気がする。
「ルティア」
「は、はい……!」
「あのさ」
「はい……?」
「あのー……」
「……?」
俺はのどを鳴らし、一呼吸空けると、言った。
「じゃあな。また明日」
「あ、は、はい……。また、明日」
俺は魔方陣で帰った。
……。うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ。