先生、家に帰れません(泣)!!
キーンコーンカーンコーン
6限終了のチャイムが鳴った。
「終わった……」
やっと終わった……。長かった……!
しばし最後のチャイムの余韻に浸る。
とうとう俺は6限までやり切った。帰りのHRをやって、やっと俺はこの学園から解放される。
ようやく女生徒だらけのこの学園から、解放されるのだ。
1日中、俺は女生徒たちの視線と闘い続けた。既に俺の精神ゲージはボロボロだ。
SPにして1残るか否か。
帰ったら何しよう。ゲームでもするか。そういえば最近買ったドラ○エまだ積んだままだった。今日は思い切り動き回れるゲームがやりたい気分だ。G○A5でもやろうかな。
そう考えて、俺は気付く。
ゲーム、あるのか……?
……たぶんこの世界にゲームはないだろう。そもそも、俺はどこに帰ればいいというのか。元の世界には帰れないと言われた。
邪神の部屋に帰ればいいのだろうか。邪神といえども、やつはいちおう、俺の本当の親らしいし。
父さんと母さんは元気にやっているだろうか。
そんなことを考えていると、担任のフランソワが入ってきて終わりのHRを始めた。
「皆さん、今日もお疲れ様でした!! 今日は新しい“お友達”が入ってきましたね。学園初の男の子ということで戸惑う方も多かったことでしょう。でも、同い年の男の子がいるなんて私にしたらちょっとうらやましいです。私が学生の頃は同い年の男の子なんていませんでしたから……。新しい“お友達”も入ったばかりで、馴染みづらいかもしれません。ですから、皆さんからどんどん話し掛けて、少しでも早くこのクラスに、この学園に馴染めるように協力してあげてくださいね!!」
しーん。
また無言だよ……。どれだけ俺は、このクラスの生徒に嫌われているんだ……。
あと、さっきも言ったけど、ここは幼稚園かなにかなのか……?
「え。え!?」
フランソワが取り乱す。
俺の精神ゲージ、もうずっと1だよ。真っ赤だよ。これ以上下がらないよ。
「はい!」
そう思っていると、真ん中に座っていた女生徒が通る声で返事をした。
見れば、それは昼休みに俺の案内役を買って出てくれた、伝説の勇者の娘、レレイナ=クラウンだった。
「はーい!」
それだけではなかった。廊下側から二番目、最前列の方からも声が聞こえてくる。
邪気のない、おっとりとした声。
俺が最初に話し掛けた女子、ココミ・ハルという女生徒だった。
どうやら俺と話したことを覚えていてくれたのだろうか。よくわからないが……
そして、もう1人。俺の隣の席で、もぞもぞとしている女生徒がおもむろに手を挙げた。
桃色のショートの髪、俯きがちな姿勢で。
「……は、はい」
アイ……なんだっけ。ど忘れしてしまった……。そうだ、アイ・シルフィー。
違う、本当にど忘れしただけなんだ……。アイシルフィーには感謝しても仕切れない……。
フランソワの顔が晴れる。
「3人とも、ありがとうっ!! 他の皆さんも、少しずつで良いので、仲良くしてあげてくださいね! それでは、皆さん気をつけて帰りましょう! では起立!」
フランソワの言葉に、周りの生徒が立ち上がる。
「礼!」
フランソワがおじぎをする。周りの生徒もおじぎをした。
さよならー。
学級委員とかいないのだろうか。全部フランソワが言う。
フランソワの挨拶が終わると、周りの生徒達はざわつきはじめ、まばらに教室を出て行った。
フランソワも出て行く。
「……俺も帰るか」
最後の女生徒が出て行き、俺は1人で教室を後にした。
魔方陣に入り、一気に昇降口脇まで移動する。
靴を履き替え、学園を出る。
桜の花びらが舞っている。桜の木がレンガの壁の前に並んでいる。
校門を出ると、巨大な城めいた学園を振り返った。
「17階もあるのか……。とてもそんなにあるようには見えないが……」
「せいぜい10階くらいじゃないか?」
学園を見上げながら呟いた。
まあ、魔法の世界だ。外見と中身が違ってもそんなに驚くようなことじゃないんだろう。
「天上私立ってのも、なんか空の上の人が牛耳ってるっていうような印象だし……」
学園の表札を見ながら思う。
ようするに、何でもありってことだ。
気にするだけ無駄だ。
俺はただの草むらを歩きながら、右目に宿った邪気眼に触れる。
念じる。邪神の部屋へと。
……。
「戻れ、邪神の部屋に」
……。
あれ。
何の反応もない……。
来るときは念じただけで行けたのだが。
俺は危機感を覚えた。
「先生! フランソワ先生」
職員室の扉を開け、中に入る。
職員室内には、2、30人程の先生達がいた。全員女性。みんな胸がでかかった。
「お、若い男!」
フランソワよりも巨乳な先生が俺に気付く。体育教師のように恰幅がいい。身長が俺より頭一個分高い。赤い服。赤と茶が混ざったポニーテール。どこかクノイチっぽい。谷間の露出が多めで、目のやり場に困る。
「どうした転入生~」
そんな女性職員が俺の肩に腕を回してくる。ボインが当たる。
「あの……当たってます」
「おん、知ってる」
「ふぁい!?」
ボインがさらに弾力を増す。わざとやってるんかい。
「あふ」
「かわいい」
「うちの生徒になにしてるんですか――っッ!!」
フランソワが慌てて駆け寄ってくる。
「うちの生徒ー? こいつは学園の生徒だろ? それとも何か? 独占欲でも出しちゃってんのか?」
「な――っ!?」
フランソワの頬が赤らむ。
「いふぁい」
痛いです、ふぇんふぇい。
「ほら、困ってるじゃないですか! 離れて、下さいっ!」
「困ってないよなー。嬉しいんだもんなぁ~。だってよ、フランソワ」
「貴方が勝手に言ってるだけじゃないですかぁっ!」
「せっかく若い男が入ってきてくれたんだ。もう少しいいだろ~? なあ」
「駄目ですぅ!!!」
「もうちょっとだけ。もうちょっとだけだ。あぁー、やっぱり若い男はいいなぁ」
「うぐっ」
「んもうっ!!」
フランソワの引きはがし行為虚しく、しばらく俺はおっぱいプレスを浴びていた。
「フランソワ先生、俺、家に帰れません」
俺はフランソワの職員机で、ことの顛末を説明した。
「どうして?」
「わかりません」
「なんで?」
「こっちが聞きたいです」
「困ったわね……」
「どうしましょうか」
「どうしましょう……」
俺とフランソワは途方に暮れた。目の前には、健全な男子を誘惑する蠱惑的な巨乳。
「先生の家に泊めてもら……」
「駄目」
「そうですか……」
淡い期待は一瞬で崩れ去った。
「帰れなくなる理由としては、魔力がないとか、その場所がないとかいろいろ考えられるけど……」
「精神ダメージで魔力が0になってしまいましたかね……」
「どうかなぁ~……」
「どうすればいいですか」
「わからないよぉ~」
「先生の……」
「駄目」
「……よくわかりましたね」
「すごい?」
「はい」
「えへ」
フランソワが可愛さアピールをする。フランソワが可愛かった。
「もう、この学園に泊めちゃえばいいんじゃないか?」
話が進まないフランソワと俺の会話にしびれを切らし、先ほどのさらに巨乳の先生が横やりを入れた。
「ボイン先生……」
「誰がボイン先生だ。私はベリエール=フレイル。ベリエール先生とお言いなさい」
「はい」
この先生はベリエール=フレイルというらしかった。
「大丈夫なんでしょうか?」
フランソワが言う。
「客用の部屋が何個かあるだろ。使ってないから、そこ使って良いぞ。確か缶詰がその奥の棚に入ってるから、今日はそれ食べてなんとかしのげ。一日寝れば、魔力も回復して、帰れるようになるんじゃないか?」
「そ、それもそうね」
「あ、ありがとうございます」
俺は2人の教師に頭を下げる。今日のところはなんとかなりそうだった。