放課後 レレイナがまたいる
「おかえり」
6限が終わり、「気をつけて帰れよー」というベリエール先生の言葉を聞いて、隣のクラスでの波乱の1日がようやく終わりを迎えた。たった1日なのに、もう7日くらい経ってしまっているような気がする。
「疲れたー」言いながら俺はスクールバッグを持って学園を出て、魔方陣で一気に宿前まで帰った。
すると上述のように「おかえり」と言いながら、伝説の勇者の娘、レレイナクラウンが宿入り口の脇にブレザー姿のまま立っていたのだった。
母親か。
「……」
「……おい、無視をするな無視を。返事くらいしたらどうだ?」
「……なんと言ったらいいのやら」
「ただいま、でいいだろう」
「えー……」
「えー、じゃない」
「あにゃむにゃ」
「おい……ふざけているのか?」
「ただいま」
俺は素直にただいまと言った。
「ふん……まあいい。で、どうだった」
「……なにがだよ」
レレイナが母親のように俺のことを気にかけてくる。
「そんなの、隣のクラスでの生活に決まっているだろう。少しは、他の生徒とも仲良くなれたか」
「まあな」
「ほう?」
「腕相撲をした」
「腕相撲か」
「ああ。いろんなやつと。けっこう仲良くなったよ。と俺は思ってる」
「そ、そうか」
「……なんだよ」
「い、いや、楽しくやれてるみたいで、安心したというかなんというか……」
「……」
レレイナが頬を薄く染め、もじもじしだす。
「トイレに行きたいのか」
「っば、バカ。私をからかうな」
「じゃあなんだ。何か言いたいことがあるなら、言ってくれ。俺はそろそろ、休みたい」
俺は単刀直入に聞いた。
「じ、実はな……その……私は、お前がこっちの教室からいなくなって……なんだか、もの寂しく感じるというか……なんというか……」
「……?」
レレイナの顔がみるみる赤くなっていく。
レレイナが黙ってしまったので、俺はとりあえず合いの手を入れた。
「そうなのか……?」
「あ、ああ、そうだ。でも別に、お前は何も気にしなくていいんだ。今のは私の、ただの愚痴だと思ってくれれば、それで構わない」
顔を真っ赤にさせながら言われる。
何が言いたいのか、俺にはわからない……。
「そうか……」
俺はいちおう頷いた。
「うん」
「……」
「……話はそれだけだ。そ、それじゃあな」
そう言い残し、レレイナは顔を赤らめたまま俺の横を抜けて自分の家に帰ろうとする。
「……そうだ。ちょっと待ってくれ」
「……?」
俺は心に引っかかっていることがあることを思い出し、レレイナに相談しようと考え、その背を引き留めていたのだった。