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湖湖箕晴(ココミ・ハル) ①


「ふぅ……」


何とか1限目と2限目を無事に終え、人心地つける。


「俺に対する痛い視線も、だいぶましになったようだ……」


教室窓際最奥の席から、教室内を睥睨しながら、頬杖をつく。

未だに俺のことは気になるのだろう。ちらちらと俺を見てくるやつもまだ多い。しかし、HR後と1限後に比べれば、遠巻きに見られる精神的ストレスは大分ましになっていた。


机の上に載ったままの、2限目に使用した、国語の教科書をぺらぺらとめくる。

授業の内容は、前の世界とそこまで変わらない。魔眼が作用しているからか知らないが、文章も普通に読める。そして教科も、英語、数学、国語、科学、歴史、保体、etc、と、至って普通。変わったのは、そこに魔法が加わったことくらいか。

いろいろと疑問は残るが、気にしたところでしょうがない。あるがままを受け入れるしかない。


「なんだかなぁ……」


このもやもやした気持ち、どこにぶつけたらいいのだろうか。

俺は、周りの多彩な髪色や、もっと違う、人間と似て非なる女生徒を見ながら1人ごちる。


「コンプレックスの白髪が気にならなくなったのはいいが……なんだかなぁ」

「クラスに男1人だしなぁ……」

「誰も話し掛けてこないしなぁ……」


自分の頭を空いている手でかき乱す。

仲良くなるきっかけが、なかなかつかめない。1人、ただただ虚しい。これが転入生への洗礼かと、もしかしたら話し掛けてくれるやつが1人くらいはいるんじゃないかという、淡い期待が砕け散る。


「……」


時間つぶしにトイレでも行こうかと思い、止めた。

席を立ったら、また注目を浴びてしまうと思ったからだ。


さりとて、この短くも長き10分の休憩時間、いかにして使い切るか……。


実は、俺の斜め後ろには先ほどから、じべたに女座りしている女子がいる。

黙々と、1人の世界で折り紙をくしゃくしゃにして、気になることをしていた。


「話し掛けるべきか、かけざるべきか」


話し掛けてもいいのだろうか。話し掛けたら嫌な顔はされないだろうか。

俺は苦悩する。


「自己紹介でやらかしたのが痛いな……」


自己紹介さえ失敗しなければ、こんな遠巻きに見られることもなかったんじゃないかと後悔する。だが、もう遅い。俺はこの印象マイナスの状態からやっていくしかないのだと、苦心した。


一筋の汗を額に流すほど悩みこんだ挙げ句、俺は話し掛けることに決める。

緊張がまた高まる。

話したこともない、しかも女子に話し掛けるのだ。

緊張しないわけがなかった。


俺は頬杖を止め、深呼吸をすると、斜め後ろに姿勢を変えつつ、平静を装いつつ、なんとか話し掛けた。


「そこで……何やってんの……?」

「……ほぇ?」


その女生徒は俺の視線と声に気付くと、ゆっくりと首を傾げる。


頭頂から少し横にずれたところをヘアゴムで結び、そこから艶のある茶色がかった黒髪の長いしっぽが床まで垂れている。ロングの髪も床にバサッと散乱している。瞳はグリーン。

スカートがめくれて見えそう。黒い靴下は両方とも脱ぎかけ。

辺りには折り紙とクズと化した折り紙達。


「ほえー」


10カウントくらいして。


「今なんて言った?」


その女生徒は言った。


「……」


……駄目だこの子。駄目なやつだ。可愛いけど。

冷や汗を浮かべながら、俺は悟った。


一筋の汗を新たに流しながら、俺は再び口を開いた。


「今……何してんの?」

「ぞうさん!」

「え、ぞうさんやってんの」

「そう!」

「へぇー……」


……。何がぞうさんやってんの? 15禁の危ない想像をする。危険が危ない。しかしこの女生徒はおそらくそのような妄想はしていないだろう。

だが、この女生徒はこんな訳の分からない男の転入生にいきなり話し掛けられて、嫌そうな顔一つ見せていない。それは有り難いことではないのだろうか。

頭を悩ませつつも、俺はこの女生徒に感謝をしなければいけない、そう思い始めた。


「名前、なんて言うの」


俺は聞いた。


「ほえ?」

「名前。ユーネーム。イズナニ?」

「ユーネーム?」

聞き返しながら、女生徒が首を傾げる。


「イエス。セイ」

「マイ、ネーム、イズ……」

そこで区切り、女生徒は少しの間思考停止する。


「イズ?」

「ぞうさん!」

「ノー!」

おしい。おしすぎる。


「あなた、お名前、なんて言う名前……?」

「きりんさん!」

「ねえ……」

「ぺんぎんさん!」

「あのー……話通じてる?」

「うさぎさん!」

「……」


「ぱんださん!」「いぬさん!」「ねこさん!」


……話が通じてないみたい。俺は心の中で泣いた。



キーンコーンカーンコーン。



次の授業の始まりを知らせるチャイムが鳴った。

出歩く生徒達が、次々に席へと戻り始める。

俺もそろそろまずいと思い、その女生徒と会話することを諦め、前を向いたが、その女生徒だけは素知らぬふりをして手遊びを始めてしまっていた。


「……」


俺はもう一度斜め後ろを向き、小声で教えてやる。


「おいお前、席に着けよ」

「ぶうぶーん。わんわん。うー、うー。にゃーにゃー」

「おい……」

「がおー」


自分の世界に入り込んでいる。


「……早く席につけよ。俺……もう知らねぇぞ」


前の扉ががらがらと開いて、廊下から担任のフランソワが入ってくる。

俺は前を向いて、次の授業の教科書を取り出した。


「それでは次の授業、はじめますよー」


フランソワが教壇に立ち、クラス中を見回す。


「おや?」


フランソワが気付く。


「もぅー。ココミさんったら、またなのぉ? ココミさん! 早く席に着いてー!」


困ったように、声を大にして叫ぶ。

どうやらこの女生徒はココミという名前らしかった。まわりの女生徒達の視線がココミに集まる。

ひいては俺にも。


あのー、近くにいる俺にも視線という名の危害が及んでるんですけど……。

俺は冷や汗をかきながら、ココミという女生徒を見つめる。


「早く席に着いてくれませんかね……」


俺はココミに向かって聞こえてないだろう小声で言った。

「?」

ココミが気付く。

「せんせい!」

ココミが笑顔の花を咲かせる。

「ココミさん! ココミ・ハルさん! 早く席に戻りなさいっ!!」

「はぁーい!!」



ココミ・ハルという女生徒は折り紙とクズと化した折り紙を置いたままに、黒い靴下をはき直し、ぱたぱたと廊下側から二番目、最前列の席へと戻っていった。靴下のままで。


「上履きとか室内シューズ持ってないのかよ……」


俺は呆れかえった。



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