ソワール・コルセット ②
「うーん」
図書室。図書室内には俺とソワールの2人だけ。ショートボブでオレンジ茶髪のソワールは俺に背を向けて女座りでしょぼくれている。時折涙を拭くような仕草も見せている。
4限を知らせるチャイムはすでに鳴り終わっている。
「さて……どうするか」
俺は思案する。
まずは機嫌を直してこちらを向いて貰わないことには話にならない。
こんな時、どうすればいいのだろう。
俺は何もわからない。
こいつの好きなもので釣ればいいのか。
しかし、こいつの好きなものがなんなのかわからない。
聞いてみよう。
「なあ」
「……」
「お前の好きなものは、なんだ」
「……」
「……」
うんともすんとも言わなくなってしまった。
あんなに快活だったのに。
「そろそろ機嫌直してくれよ」
「……僕だって、好きでこうしてるわけじゃないよぉ」
言葉を返してくれた。
まだチャンスはありそうだった。
「そういえば大賢者の娘って言ってたな。お前の父さんって、すごい人なのか?」
「……うん。すごいよぉ。だってね、僕のお父さんがこの世界を平和にしてくれたんだもん」
ソワールは後ろを向きながら答える。
「……え?」
とんでもないことを聞いた気がする。
俺は3日前にこの異世界に来たばかりだから、平和な世界しか知らないが。
レレイナが自分のことを伝説の勇者の娘とか言ってたから、この世界でもかつて争いがあったのかもしれない。そんな凄い奴の娘が2人もいる俺のクラスって一体……。
あ……俺も邪神の息子だったなそういえば。
「物騒な話だな」
「うん。ごめんね……」
「もしかして、お前の父親とレレイナの父親も何か関係があるのか?」
俺が聞くと、そいつはやっと俺を振り返る。
「そうだよぅ。一緒に冒険してたんだって」
うるうオレンジの瞳を大きく開けて、ぱちくりしながら俺に言った。
「レレイナちゃんとはね、昔からよく遊んでたんだよ」
「そうなのか」
「うんっ」
声に覇気が戻ってくる。笑顔も戻ってきている。
この話題が良さそうだ。平和の話も気になるが、こちらの方が反応が良い。
俺はもう少し切り込んでみる。
「レレイナはどんなやつなんだ」
「レレイナちゃんはねぇ」
「ああ」
「変な子」
「へぇー……」
どう考えてもお前の方が変だと思うが……。今は心の中にしまっておくとしよう。
「あのね、レレイナちゃんのお弁当見たことある?」
「……ないが」
そういえばレレイナは今日弁当を作ってきてくれると言っていたが、作ってきてくれているのだろうか。
というか、今日の昼、俺はどうレレイナに接すればいいというんだ……?!
頭痛が酷い。
俺の心配を余所に、こいつは可笑しそうに言う。
「すごーく変だよっ」
「なにが」
「だってさ、いっつも紫色してて、ぐちゃぐちゃなんだもん!」
「弁当の中身が?」
「うんっ! 可笑しいよねぇ」
……。どんな弁当なんだよ。俺は気になった。
「それをおいしそうにむしゃむしゃ食べるんだよっ」
……。
「歯も紫色でね、口の周りにもいっぱい紫がついててさぁ。あははっ」
……恐ろしくなってきた。
だが、機嫌を直してくれたようでなによりだ。
俺は本題に入ることにする。
「なあ」
「ん?」
「俺はこのままだと教室に居場所がなくなりそうなんだ」
「そうなの?」
「ああ。お前が大声で俺がごにょごにょなんとか言ったから、俺は女生徒達とお友達になる機会を失いそうだ。もしかしたらレレイナとも口を聞いてくれなくなるかもしれない」
「え……そうなの? そんなことないよっ」
「あるよっ」
「あるの?」
「ああ。お前はKYだからわからないかもしれないが」
「けーわい?」
「空気が読めないの略」
「僕、空気読めるよ!!!!」
自信たっぷりに言われる。
「読めてないよ」
「そうかなぁ?」
「そうだ。じゃあ、俺がいまどんな気持ちなのかわかるか?」
「わからないよぉ」
「そうだろう。じゃあ、お前はいまどんな気持ちか当ててやろうか」
「え。当てられるのっ!?」
「ああ。お前は今、本当に僕の気持ちが当てられるのかな? と考えているだろう」
「え。うんっ! 当てられるかなぁ~? って考えてたよぅ。すごいなぁ!」
感心される。バカなやつだった。
「これではっきりしたな。お前はKYだ。心が読めないやつは、きっと空気も読めない」
「そうかなぁ?」
「そうなんだよ」
「うーん」
「もう考えるなお前は。とにかく、俺はお前の発した言葉のせいで、教室に居場所がなくなった」
「そうかなぁ?」
……。んもうっ!!!!!! やんなっちゃう!!!!!!
「……だから! 俺は心の中で泣いている。悲しい。お前の言葉に傷ついた」
「え……ごめんねぇ……」
悲しそうに俺を見つめる。苛立ちが静まる。
「……だからちゃんとクラスのみんなに、言ってくれ。なんか。そして、作れ。俺の居場所を作れ。お前のせいでなくなった俺の居場所を、お前が取り戻せ」
「ええー、そんなのできないよぉ」
「出来ないじゃない、やるんだ」
「ええぇー、なんで僕がやらなくちゃいけないんだよぉ」
「お前のせいでこうなったんだろう」
「どうなったの?」
「あの男はレレイナのことが好きなんだって、へぇーちょっと優しくされて勘違いしてるんじゃない? 野蛮ね、あの人には近付かない方がいいわねってクラスの女生徒達に思われているはずだよ」
「考えすぎだよぉ」
「うるさい! 俺が傷ついたのは確かだ」
「うぅ……」
「ごめん」
「僕にどうしろっていうんだよぉ」
「勘違いしてごめんなさいってクラスに謝れ」
「嘘はやだよぉ」
「嘘つきはお前だ」
「僕、嘘ついてないもん!」
「……」
ソワールは悲しそうに後ろを向いてしまった。
「はぁ……」
あーあ。ゴール目前で振り出しに戻されてしまった。
俺は嘆息すると、長テーブルに並べられているうちの一つの席に座りこんだ。




