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恋の目をしている


「よっこらせっとぉ」


3限目が終わり、俺の前に座っていた黒髪ストレートの清楚な女生徒は逃げるようにそそくさと教室を出て行った。俺は何気なくその女生徒の後ろ姿を追い、ついでにレレイナクラウンの座る背を一瞥した。

アイ・シルフィーも顔を赤くしてどこかへと行った。どこへ行ったかは顔色を見れば明白だろう。

その時、俺の前の椅子が空く瞬間を待ちかねていたかのように、俺の席の右端に座っていたショートボブの茶オレンジっぽい髪色をした女生徒が俺の元へと来て、前の椅子にスカートを広げて椅子の背にまたいだ。

そして座る瞬間、オレンジの瞳を輝かせながら明朗快活に上述の言葉を述べたのだった。

白パンが見えた。


「……」じと目。

「やあ!」

「……」

「君きみぃ、僕の声が聞こえていないのかい?」

「……なんだ」


俺はなんか嫌な予感がした。こいつは今日、授業中、俺のことを結構な頻度でチラ見してきている。

たまにではない。1分に一回くらいの間隔でチラ見してきている。いくら俺が若い男で珍しいからといって、もう3日目だ。しかもクラスメイトだ。

流石に見る方も見られる方も見慣れてきている。その3日目に、こいつだけ、いきなりチラ見度数が急上昇している。どう考えても異常だった。

俺がそいつをじと目で見つめていると、その女生徒は全く気にする風を見せず、手を口に添えて俺に顔を寄せてきた。


「僕、ソワール・コルセット。よろしくね」

そう、小声で挨拶される。

「なんで小声で挨拶をするんだ?」

俺は普通にしゃべる。


「だってさぁ、この方が緊張感出るじゃん」

小声のまま返答される。

「緊張感があると良いことでもあるのか」

「あるよ。いっぱい」

「どんな?」

「たとえばさ」

「ああ」

「秘密の話してるみたい」

ぽかーん。なんじゃそりゃ。

「なんでぇ」

「あとさ」

「なんだ」

「男の子の匂いがかげる」

「……!?」

おまわりさん! こいつです! ここに変態がいますよ! ついでに白パンです! ごめんなさい! 俺は逮捕しないでください!


「ふーん。じゃあ、俺もお前の匂いがかげる」

「そうだねっ」

「……」

そうだねって……。まあそうなんだけど。


「ソワール。お前は今日、やけに俺のことをチラ見してきてたような気がするんだが」

せっかくやってきてくれたので、俺は気になっていたことを聞いてみる。

「あぁ、そうだねっ」

「なぜだ」

「だってさ」

「なんだ」

「だってさ」

「……普通にしゃべっていいぞ」

「本当に?」

「ああ」

「本当の本当に?」

「……怖いフリやめろよ」

「怖いかな? ごめんね」


そこでソワール・コルセットは口に手を添えるのを止め、姿勢を戻すと、大きく口を開ける。



「「だってさ、君、レレイナのことを恋してる目で見てたんだもん!!!!!!」」



満面の笑みをたたえて、悪びれもせず、臆面もなく、そいつはいきいきと発した。



しーん。



ソワールの小声から一転、でかすぎる大声によりクラスから話し声が消失する。

教室中の目が一斉に俺とソワールに集まる。

レレイナも自分の名前を呼ばれたことにびくり、さらには、その後のビッグマウスに驚愕の表情を浮かべ、がたがたっと腰が椅子から転げ落ちる勢いで俺を振り向いた。レレイナの顔が真っ赤になっている。

伸びしろどころか縮み白だよ俺は。

俺の頭は、まっしろしろすけになっていた。白髪だけに。

トトロ! 俺のトトロが悲鳴を上げている!


「……なんだと?」

「だってさ、レレイナのことばっかり見てるんだよ。僕、それが気になって気になって、君のこと、たくさん見ちゃったんだよぅ」

「え? なんのこと? ああ、思い出した。あれね。あれなら大丈夫だ。俺が代わりにやっといたから」

「え? なに言っ」

俺は二の句を手で塞ぎ、そいつの背に回り込むとそいつを教室外へと押し込む。


「うむぐう」

「男にしか出来ない相談って、いったいなんだろうなー」

教室から出て廊下を少し進んだところで、ハンカチで手を拭きながらトイレから出てくるアイシルフィーと鉢合わせした。


「ぁ……」

アイシルフィーとぶつかりそうになる。

「うわっと。悪い」

「うむぐう」

「ど……どうしたの……」


アイシルフィーは教室にいなかった為、ソワールの勝手な妄言を聞かれずに済んだようだった。そのことにつかの間安堵する。だが油断は出来ない。教室の誰かが告げ口してあらぬ誤解を生んでしまうかもしれない。俺は布石を打つ。


「教室に行ったら、俺の話があるかもしれないが、あれは全部デタラメだ。妄言だ。虚言だ。こいつが言った勝手な勘違いのせいで、俺の学園生活は破滅を迎えようとしている」

「ぇ……」

わけがわからず、アイシルフィーは戸惑いの目で俺を見つめる。


「でも、信じてくれ。お願いだ。俺は信じてるからな」

俺はそう言い残し、口を塞いだソワールと共にアイシルフィーの横を通り過ぎた。

アイシルフィーは呆然と立ち尽くしている。

どこへ行くか。魔方陣に入りながら考える。


とにかく今は、こいつを誰の目も触れない場所に連れて行かなければならない。

こいつをどうにかして説得し、4限の残り時間をフルに使い、ゆっくりとクラスメイト達の勘違いを取り除く作戦を練るとしよう。こいつの犯した罪はでかくつくぞ。


「なんてことを口走ってくれやがったんだこいつは……!」

普通にしゃべれって言ったのは俺だけどさ……。

大声で言えなんて俺は一言も言っていない。普通とデカ声の区別もつかないのかこいつは。


4限はもういいや。サボれ。


どうせいたって気まずいだけだ。


俺は図書室のある15階と念じた。


次の瞬間。



俺とソワールは、4階の魔方陣から消失した。




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