アイ・シルフィー ②
「はぁ」
四限が終了した。五十分間の授業を耐え抜き、昼休みが訪れる。クラスの生徒達は各々弁当を広げ、またいくらかの生徒は出て行った。出て行った生徒はどこへ行くのだろうか。他に食べる場所があるのだろうか。
俺はべたついた頭を気にしながら何もせず座っていた。
隣ではアイ・シルフィーが1人で弁当を広げている。
見てはいけない、そうは思っていても身体は正直だ。俺はそれを見てしまう。
アイ・シルフィーは俺の視線に気付き、恥ずかしそうに顔を赤らめている。
長い前髪を落とし、小さい肩を丸める。
「……悪い」
俺は前を向いた。
腹など減っていないかのように振る舞うが、身体は正直だ。
ぐーぐるぐるぐるぎゅるぎゅるぎゅぅぅぅぅ―――――――――――――っッッ!!!!
「……」
もう駄目だ俺は。
俺は立ち上がり、これ以上醜態を晒さないよう教室から立ち去ることにする。
「ぁ……」
アイ・シルフィーの後ろを通ったところで呼び止められる。
「ま……待って……っ」
「え」
振り返ると、アイ・シルフィーがこちらを俯きがちに向いていた。
「一緒に……た、食べよ……」
「……」
いや、食べたいけど。
食べたいけどね……?
「……でも、悪いだろ。弁当箱も小さいし」
「まだ、ある……」
アイ・シルフィーは机脇のスクールバッグをごそごそ漁り、中から銀の包みを3個取り出した。
「……本当にいいの?」
「いいいよ」
「……ほんとに?」
「うん」
「ほんとのほんと?」
「食べよ」
あじがどうござびばぜッッッッッ!!!!!!!
俺は嬉しい。こんな優しい子が俺の隣にいてくれて。
目に浮かぶ涙をぬぐう。
俺はおむすびを一つ貰って噛みしめながら味わった。
「うますぎる……っ!!」
「そ、そうかな……」
塩がよく効いている。
目から自然と涙があふれる。
「これ、私が作ったんだ……」
「ごんだうばいぼどを、よぐづくれるで」
「こっちのおかずも、食べて良いよ」
「あじがどうござびばずッ」
もう周りの目なんてどうでもよい。
俺は感涙にむせび泣きながら卵焼きみたいな味のよくわからない緑のサクサクしたやつを食べた。
腹は三分目くらいまでしか膨れなかったが、午後の授業で腹の虫は鳴かずに済みそうだ。
「うまかった。ありがとう」
昼休み終了5分前、少しずつ空席が埋まっていく教室内で、俺はアイ・シルフィーに再びお礼を言う。
「……うん」
机を見ながらアイ・シルフィーは顔を真っ赤にしてうなずいた。