サウファ・コロン ①
「乾かねぇな……」
フランソワが教壇に立ち教鞭を執っている。二限が始まっても髪についた水は乾いていなかった。
いや、もしかしたら乾いているのかもしれない。ただ湿っぽくて乾いてるのかよくわからない。
べたつきが収まっている様子はない。
二限が終わり次第、俺は再び水飲み場へと向かった。さっきより水量を多めに垂らす。
春の温かい季節とはいえ、頭にかかる水は冷たい。
俺は男子トイレで時間を潰し、三限目が始まる少し前に教室へと戻った。
3限目が始まる。この時間になると流石に腹が空いてくる。だが俺はまたもや昼食の件を考えていなかったことに気付いた。
「どうするか」俺は唸る。
「食堂は、ないんだろうなぁ……。邪神から頂戴した金なら腐るほど持っているというのに……」ガックリと肩を落とす。
「いっそ金で釣って女子共からおかずを一個ずつ巻き上げるか……」出来もしない方策を講じる。
なんとか三限が終わった。あと一つ耐えれば昼休みだ。
髪は湿っぽくべたついたまま。俺は最後の悪あがきにもう一度だけ蛇口のある流し台へと向かう。
水を手にすくい、頭に水をかける。こんなんじゃ、いつまでやっても無意味だろう。
まあいい。
俺は教室に戻った。
俺は窓際の奥の自分の席に座って次の授業が始まるのをぼーっと待っていた。
隣の席のアイ・シルフィーは向こうで誰かと話している。周りの席は空席だった。
やることもなく外を眺めていた。
そしたら誰かに頭を触られた。
「うわっ」
俺はその手を払い、その主へと振り向く。
机の前に、水色の髪の女生徒が立っていた。透き通る蒼い瞳。背丈は低い。頭の片側に羽の形をした髪飾りをつけていた。ショートカットだった。
「ぬれてる」
無表情で俺を見つめながら言った。
「……」
「べとべとしてる」
「ひ――っ!!」
俺は咄嗟に両手で頭を隠した。
「どうしたの」
その女生徒が無垢な瞳で疑問を浮かべる。
「触ったな? 親父にも触られたことないのにッ」
「なに言ってるの」
女生徒は表情一つ変えずに言う。
「まあ、なんだ。今お前が触った俺の髪のことはもう、忘れてくれ」
「どうして?」
「どうしてって……このことがバレたら、俺の学園生活が終了するからだ」
「どうして?」
「……だから、俺が知られたら嫌なんだよ」
「どうして?」
「……」
「どうして嫌なの」
……。子供の得意技、どうして攻撃。どうすりゃいいってんだ俺は。
「どうして? 知るか。自分で考えろ」
放棄だ。試合放棄。
「どうしたら分かる?」
「俺にもわからん」
「そうなの?」
「ああ」
「そっか」
女生徒は納得も何も、そもそも何も考えていなかったかのように、無表情に、俺の列の一番前の席に戻っていった。
なんだったんだ一体?
俺は額に汗を浮かべてその女生徒を見ていた。