5限目 学活 ラスト ライム・ロファ ①
「ううん……」
5限目。学活。
折り紙交換会終了まで、残り2分。もう時間がない。
ないのだが……。
俺は窓際最前席にいるライムの元に行こうとし、まだ行かずにいる。
なぜなら、座っているライムの元には、1人の少女が折り紙を渡そうとしているからだ。
邪魔をしてはいけない。
俺はその様子を、窓際最後尾の自分の席から見ていた。
しかし、ライムはそれを受け取らない。
受け取らないばかりか、見ようともせず、話し掛けられても、うんともすんとも言わず、俯いていた。
どうして受け取らないのか、どうして返事をしないのか。
それは、人見知りだからなのだろうか……。
少しして、そのロリは諦めて戻っていってしまった。
俺も行こうと思っていたが、その足が動かない。
しかし、残り1分。
今にも周りに囲まれている先生が席につくよう、合図を送ろうとしている。
時間もないし、もう、席に座ってしまってもいいのだが……。
俺は残った2枚の折り紙を手に持ち、悩む。
いや、でも……行くか。
せっかく折ったんだし。
そう思い、俺は急ぎ足でライムの元へと向かった。
ライムの小さな背と頭が近付く。
小さい。他の子に比べて、さらに一回り小さめな体躯。
机の横まで来た。ライムは俯きがちに机を見ている。
どくん。
どくん。
どくん。
……話し掛けてもいいのだろうか。しかし、見て貰えるのだろうか。肩にとんとんと、手を置いて呼びかけてもいいのだろうか。
わからない。ここまできて、何もわからなくなる。
机の上には、ライムが折ったのであろう、俺と同じようなチューリップや、その他よくわからないものが折られていた。
ライムが俺に気付く。
いや、気付いていたのかもしれない。
しかし、びくっとさせたまま、俺を見上げはしない。
「……あ」
俺はあ、と声が出ていた。
「……あの、これ」
俺は咄嗟に、劇画風の人面犬折り紙をライムの机に差し出していた。
ライムはそれをじっと見つめるが、何も言わず、取ろうともしない。
気まずそうに、ただ時が過ぎるのをじっと待っているかのように、そこに座っている。
しかし、その顔のインパクトが凄いからか、すぐに視線を逸らすこともなく、見つめている。
……咄嗟にこっちを出してしまったが、正解だったかもしれない。
そう思い。
俺はそれをライムの机の上にそっと置くと、室内のチャイムが鳴り、先生が手を叩いた。
「みんな-、席に戻ってくださーい」
「……いらない?」
生徒たちが戻っていく中、俺は最後に、返事が貰えるかわからないが、迷惑だったかもと思い、いらなければ自分であとで処分するため、そう聞いていた。
「……」
ライムはおそるおそる俺を見上げると、すぐ視線を机に落とした。
……駄目か。
そう思ったが、次には、ライムは首を小さく横に振った。
「……じゃあ、あげる」
反応があったことにほっとしつつ。
そう言って、流石にほとんど周りが席についていたので、俺は急いで自分の席に戻った。
アオウ先生は俺とライムを見ていたが、すぐに授業終了の号令をかけた。
「それでは、今日の授業はお終いです。みなさん、帰りの用意をしてくださーい」
こうして、俺の今日の学園生活は終了した。