5限目 学活 ② クク・エクレー ①
「……」
5限目。学活。
俺は晴れた空の下の学校のとあるクラスの端で、折り紙を真剣に折っているロリたちを見渡すと、黒板横の掲示板に貼られている時間割表を遠目に確認した。
「……」
どうやら小学生は一律1コマ45分授業らしい。
……そういえば俺の通っていた小学校も45分だった記憶がある。そして、始業時間は高校より20分程遅い。
しかも、1年生は5限までしか授業がない。つまり、この授業が終われば、即帰宅。
しかも、授業が楽。
「……」
あぁ……こんなに楽でいいのだろうか、俺は。いや、いいに違いない。いいはずだ。
そんなことを考えながら、俺も配られた折り紙に目をやると、それに手をつけ始める。
しかも、たった3枚。3枚折るだけで、授業終了だ。
チューリップ3つ折れば、そしたら後は寝てればいい。
鶴なんていう高尚なものは折れない。
アイが折っているのを見ていたが、一度見たくらいで、折れるわけがなかった。
「……よし」
……俺は本当にチューリップを3つ折った。とはいえ、3つ同じにしてアオウ先生に見せるのは恥ずかしいというか、気が引ける。
故に、俺はチューリップに改良を加え、チューリップのトゲの端を小さく折り曲げ、いつぞやのココミに作ったようなチューリップ鶴を作る。
そしてもう1つ。
もう1つはどうするか……。
俺は熟慮する。
「うーん……」
手をこまねき唸るが、何も出てこない。
俺は隣を見た。隣にはピンク髪ゆるふわロングの女生徒がふわふわとした雰囲気でよくわからないものを折っている。
何を折っているのだろうか……。
聞くべきか、聞かざるべきか……。
「……」
そういえば、椅子の裏に名前シールが貼られている。
これは1年生特有、生徒どうしの名前覚えに使われているのだろうか。
俺は前の席の子の椅子を確認する。
前の席の赤髪ちょんまげの女生徒の名前は、どうやらティナ・ファミーユというらしい。
「……クク・エクレー」
そして、右隣のピンク髪ゆるふわロングの子は、椅子の後ろにクク・エクレーと書かれていた。
どうやらククという名前らしい。
俺はククという、楽しげに自分の世界で折り紙を折っている生徒をもう一度見る。
「……聞いてみるか」
……聞いてみるとするか。
子供に聞くか聞かないかで迷うのも、なんかあれだしな……。
仲良くなるには、どちらにしろ話し掛けなければいけない。
なら、話し掛けるべきだろう。
そう思い、俺は息をのむと、意を決して隣の住人に話し掛けることにした。
「えっと……、あのー……、なに作ってんの……?」
俺は話し掛けた。
「ランラン♪」
「……」
……無視。圧倒的、無視……!
話し掛けても無駄無駄無駄無駄ッ――。
じゃなくて。
いや、今のは俺の声量と態度が悪かった。俺の問題だ。
俺は喉を鳴らすと、気付いてくれるよう先ほどより身体を近づけ、大きめの声で聞いた。
「あのー、ククさん……なに折ってんの……?」
「え……? クク?」
ククが気付いた。桃色の大きな瞳が俺を見上げる。
「うん。……折り紙で、なに作ってんの……?」
俺はうなずき、再度聞いた。
「ククはねー、くまさん!」
ククは笑顔で言った。
「へ、へえー、そうなんだ」
「うん!」
「……」
俺はロリのその表情に癒やされた。
ニヤけそうになり、なんとか堪えた。
「この子、作ってるんだよ~」
言って、膝の上に置かれているくまのぬいぐるみを持ち上げて、頬にくっつけた。
ククは独特のファンタジーな雰囲気があり、口調もおっとりのんびりとしていて、声もファンタジーだった。表現するならば、口角を横に開いて、ささやくような甘い声。
……ごくり。
甘えてぇ……。
……おい、しっかりしろ、ロリコン。なに考えているんだ……。俺が小1に甘えたいとか……犯罪になるだろう……静まれ……俺の理性……。
「……ふぅ」
危うくロリコンになりかけたが、なんとか一命をとりとめる俺だった。