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湖湖箕晴(ココミ・ハル) ②


「やっぱちょっと臭うな」


一限目が無事終わり十分の休憩時間中、ぐったりしながら俺は自分の腕の臭いを嗅いでいた。

ズタボロの精神状態は未だ回復の兆しを見せてはいない。しかし風呂に二日入っていない(くさ)(にお)いの身体は気になる。

周りの生徒達はまだ気付いていないようだが、特に気にする程の異臭散布量でもないのだろうか。

俺の隣には桃色のショートヘア、アイ・シルフィーが座っている。

アイ・シルフィーは机上のノートにペンを走らせて前の授業のまとめをしていた。

特に臭いや俺のべたついた髪を気にしているそぶりはない。


「いけるか……?」


いける気がした。

俺は席を立ち、教室前の水飲み場に向かった。水飲み場で水を飲む振りをして軽く頭に水をかける。

べたついた髪に潤いがもたらされる。


「これが乾けば、べたつきは収まるか……」


わからないが、実験だ。

俺が蛇口を見ながら髪が乾くのを待っていると、遠くから廊下を走る音が聞こえてきた。聞こえてきたかと思えば。



「わっ!!!」

「うあっぷっ!!!!!」


俺の耳元で誰かが大声で叫ぶ。鼓膜が痺れるような耳をつんざく音響に、俺は微弱に飛び上がる。


「うるさっ。……なんだ、お前かよ」


俺は目の前の女生徒に呆れる。天辺から少しずれた所を結わえ、そこから細く長いしっぽが伸び、また背中を覆い尽くす程のロングの茶黒い髪を揺らして、ココミ・ハルが立っていた。

中肉中背の女性らしい体つき。だがおつむがちょっと駄目な子。

ココミ・ハルという女生徒。

そいつが興味深そうに俺を見つめている。


「うるさいよ。危険だからやめな」

「ビーダマ!」


後ろ手に持っていたビーダマを見せられる。


「……ビーダマ?」

「これ!」

「……」


俺のありがたい戒めのお言葉はガン無視かい。


「……ああ、ビーダマだな」

「きれい!」

「ああ、そうだな」


ココミ・ハルがビーダマを顔のある位置まで持ってくる。

俺はなんのへんてつもない蒼く透明なビーダマを見つめた。


「好き?」

「!?」


唐突に出てきた美少女の『好き』の単語に一瞬ひるむ。だが相手は子供頭脳。

臆する必要はない。こいつの話は適当に受け流すくらいがちょうど良い。 


「ビーダマンなら好きだが?」

ゴーシュゥッ!


「?」

ココミハルは首を傾げる。


「そのビーダマ貸して」

「いいよ!」


俺はビーダマを受け取った。

俺はしゃがみこみ、ビーダマをそっと床に置く。


「なにするの?」

ココミハルが聞いてくる。


「いいこと」

「ほんと!?」

「うん」


俺は中指と親指でわっかを作る。そしてそのビーダマの中心に狙いを定めると。


「ゴーシュゥッ!」

ビーダマをぶっ飛ばした。


「うわあーっ!!」

ココミハルが笑いながら追いかけていく。




「ふぅ」


長い髪の毛を振り乱しながら遠くなるココミハルの背中を見ながら。

俺は立ち上がり、何事もなかったかのように教室へと戻った。




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