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異世界の学園がもはやギャルゲー  作者: ヘルプ
物語は、新たな展開へ
109/124

最後のチャンス


「……やるぞ、俺は」


昼休み。教室。


隣には桃色ショートのアイシルフィー。アイシルフィーが弁当を広げている。


俺はといえば、校長室から帰ってきていた。

向こうも少し準備に時間がかかるらしく、昼休みが終わる前にもう一度校長室に来て欲しいとのことだった。

それで、いったん教室に戻り、俺も弁当を広げ、朝の残りを詰めて貰ったものを箸でつまんでいる。


どっちみち、昼食はこっちの教室で取りたいと言うつもりだったが……。

アイシルフィーとの間柄を縮める前に、教室を移動になってしまうのだけは御免こうむりたかった。


……しかし。

いや、しかしもかかしもない。


……アイに、話し掛けるのだ、俺は。

話し掛ける以外に、今の俺に選択肢はない。


この時間が、ラストチャンス。


「……」


俺はアイを垣間見た。

アイは、俯きがちに小さな口で小さめな弁当を食べている。

食べている姿もかわい……じゃなくて……。


「……」


俺は喉を鳴らす。


すー……はー……。


そこここでざわつく教室の中、俺はばれない程度に深呼吸を何度かすると、意を決し、口を開いた。


「ア、アイ……」

「……ん?」

「……」


アイがこちらを向いて返事をしてくれた瞬間、俺は胸の底からわき上がる感情に打ち震える。

手汗がやばい。

無視されなかった。それだけで、俺の心はぴょんぴょんハッピー。


「……」

「……」


……しかし、そこで俺の言葉は詰まる。

話題を、何も考えていない……。

やっちまった……俺は心の中で頭を抱えた。


「……せ、千夜くん……」


俺が不甲斐ないばかりに何も言えずにきょどっていると、アイが言った。


「な、なんだ……」


話し掛けた方は俺なのに、俺はアイに疑問を投げかけてしまっている。


「さっき……校長室……」


アイは校長室に俺が呼ばれたことに関して、気にかけるように言葉を濁しながら言った。


「ああ……そうなんだ」


「……え?」


聞いてくれたことを有り難く思いつつ、俺の肯定に、アイがきょとんとした顔をする。


「よく聞いてくれた。俺はまた、別のクラスに移動することになった」


「……え?」


アイは再び、否、変わらずきょとんとした顔をする。


「そうなの?」

「ああ。昼食を食べたら、1週間、多分、1年生のクラスに行くらしい」


……そう、俺は1週間、1年生のクラスに行くことに決まった。

かつて、レレイナと共に案内を受けた時に見た、あの、ロリの教室。

俺はロリたちと触れあえることになったのだ。


しかし、それは一つのクラスだけで、その短期触れあいが終わったら、もう一つのクラスに行くわけではないらしい。

どうやら、校長先生は俺に行って貰いたいクラスがいくつかあるらしく、そちらを優先したい、とのことだった。

その理由としては、まあ、いろいろあるのだろう……詳しくは聞いてないから知らないが。


「そうなんだ……」

アイは言った。

「そうだ。だから、その前に、アイとは、もう少し話しておきたいと思ったんだ」

「……え」


と、俺はその時、自然に、今なら言えそうな気がして、そう、思っていたことを言ってしまった。

その言葉に、アイが引いたように固まる。


「……」

……引かないでくれ!? 俺は言ってしまってから恥ずかしさのあまり心の中で叫んで突っ伏したくなった。


「……そう、なんだ」

アイの顔が心なしか赤くなったように見える。

「そう、じゃ、あ、うん、そう。そうだ。だから、悪かったと思ってるんだ。俺は。駄目なやつなんだ」

「え……?」


アイがさっきから、え、ばかり言っている。とても困っている。

だがしかし、俺は上がってしまって、どうにも収拾がつかなくなりそうだった。


「だから、ごめん……。先々週の昼休み、俺はアイに変なことを言って困らせてしまった。俺が悲しい目に遭いまくったせいで、俺は、アイの言葉に、救われたんだ。それで、俺はおかしくなってしまったんだ……」


自分でも何を言っているのかわからなかった。ただ、口からどんどん後悔の念が溢れてくる。

ただ、許してくれと、仲直りしたいと、その一心で、俺は空気をしらけさせてしまっている……。


アイとの温度差が、見て取れる。

アイが、呆然としている。

だが、俺は、やはり、また、失敗を犯しているんだろう……。


俺は耐えられなくなり、弁当をどかして、机に突っ伏した。

泣いている自分に反吐が出る。


もう嫌だ。帰りてぇ……。


「……千夜、くん……」


アイが呼びかけている。だが、俺はもう、駄目だ。


「……千夜くん……」

「……」

「……大丈夫だよ」


アイは、言った。


「え?」

俺は顔をあげた。鼻水べちょべちょだった。


「……もう、気にしてないよ」


「……」


アイの赤らめた顔が、まぶしかった。

アイの言葉に、俺は、またしても救われる。


俺は……。

俺は……。


「……」


また突っ伏した。



ずぎだぁ、などと言って抱きつくことはしなかった。




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