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異世界の学園がもはやギャルゲー  作者: ヘルプ
物語は、新たな展開へ
107/124

性格占い ムイ・ム・イムル ① ナシエ・ソート ①


「……」


3限が終わる。休み時間。

俺は未だにアイシルフィーに話し掛けられないでいた。

何を惚けているのだろう、俺は……。臆病者にもほどがあるだろう……。


隣にアイシルフィーはいない。アイは、2限の休み時間に引き続き、廊下側一番奥、ソワールの席の左斜め前、紫髪ツインテールの女子が座っている所に行ってしまった。

なにやら、トランプを並べて、おかしなことをしている。

神経衰弱をしているわけではなさそうだった。

そこには、一緒に、俺の3つ右隣にいつも座っている、赤髪ショートの大人しそうな女生徒もいた。


「……」


赤髪の女子が、並べられたトランプを何枚も選んでいる。

紫髪ツインテールの女子が、それを表にひっくり返し、赤髪の女子に向かって喋りかけていた。

どうしてか、赤髪女子の顔が、赤くなっている。


俺がその光景をチラチラと見ていると、紫髪の女子がいきなりこちらを見て、指を指してきた。

俺は瞬時に前を向き、見て見ぬふりをする。


すると、なぜか、アイが俯きがちに、こちらにおそるおそるやってきた。

ドキリ、として俺は机を凝視する。


アイが、俺の近くで立ち止まる。


「……せ、千夜、くん……」

「え……」


うそ。俺はびくりとする。俺が、アイに、話し掛けられた……?

俺の名前が呼ばれ、俺は自分の気持ちが高ぶるのを抑え、慌てて振り返る。

アイの顔が、赤くなっていた。


「な、なに……?」


俺は、アイに、嫌われていたのではないのか……?

突然のことにパニックを起こしそうになりながら、俺は返事をする。


「あの……イムルちゃんが……呼んでる、よ……」


アイが顔を真っ赤にして、そう言った。


「……そ、そうなの?」

「う、うん……」

「……」


俺は、天国に登りそうな気持ちになった。

俺が、アイと、話している。それだけで、俺の気分は昇天しそうになる。


「……わかった。すぐ行く」

「……うん」


俺の顔も真っ赤になっていたかもしれない。目頭が熱くなる。

ずっと……待っていたのだ。いや、俺が話し掛けられなかったのが悪いのだが。

しかし、俺の中で、今、なにかが吹っ切れたのが分かった。


俺は立ち上がると、イムル、というらしい紫ツインテ女子に感謝しながら、その場所へと向かった。

アイが、その後をついてくる。


「……来ました」


俺は言った。


「うん。じゃあ、選んで」


初絡みとは思えない、フレンドリーな物腰で、その女生徒は言った。

切れ長の青紫の目が、整った美人の顔が、俺を見据える。

横には、赤髪ショートでウルフカットの女子が、顔を赤くしたまま、気恥ずかしそうに立っていた。こっちは、どちらかというとおっとりした目で、背は普通、脂肪のついた胸と尻に目がいってしまう。美人と可愛いを足して二で割ったような風体。

頭にブリムをつけていて、まるでメイドのようだった。


机にはトランプが所狭しと裏面で並べられている。

なにをしようというのだろうか……?


とりあえず、俺は適当なトランプを指さした。


「はい。じゃあ、もう一枚」


「……?」


俺はまた、適当なトランプを指さす。


「もう一枚」


「……何枚引くの?」


「あと一枚よ」


イムルという女生徒は言った。


「……じゃあ、これ」


俺が指をさすと、イムルはオーケー、と言ってトランプをひっくり返し、また戻した。


「……なにこれ?」


俺は冷や汗をかきながら聞いた。


「見て分からない? 占いよ、占い」

「占い……?」

「うん。あたし、好きなの、占い。だから、よくこうして、いろんなことを占ってるの。で、今日は性格占い。まあ、当たるかは、自信ないんだけどね……」


言って、なはは、とイムルは笑った。


「性格占い……」

「そ。じゃあ、時間もないし、さっそく、貴方の性格を当ててみせるわ」

「ああ……」


イムルの言葉に、俺はごくりと唾を飲み込む。

赤髪ショートの女子と、桃色ショートのアイがその様子を見つめている。

イムルはうん、と頷くと、口を大きく開いて、こう言った。


「貴方の性格は……ずばり、バケツ、ね」

「……バケツ?」

「そう。バケツよ。貴方はバケツのような性格です。どう、当たった?」


イムルに笑顔で言われる。

いや……バケツって。

何が当たりなのか、よくわからない。


俺がなんと答えたらよいものか悩んでいると、イムルは続けた。


「バケツのように、何でも受け入れられる大きな包容力を持っている、ということよ。だから、端っこの方にずっと座ってないで、もっとみんなと、関わっていかなきゃ駄目よ? わかった?」


「……」


なにげに辛辣なことを言われてしまう……。

だが、それは、俺が変わって行かなきゃいけないのだということを、占いを通じて、俺に示してくれているような気がした。


「……そうだな。わかった」


俺の言葉に、イムルは笑って頷いた。


「じゃ、そういうわけで。私はムイ・ム・イムル。ちょっと噛みやすい名前だけど、イムルって呼んでね。よろしくね」


「ああ、よろしく」


「ほら、ついでにあんたも」


イムルは、視線を赤髪の女子に寄越した。

赤髪ショートの女子は、顔を赤らめながら、慌てて、口を開いた。


「あ、あの、わ、わたしは、ナシエ・ソートって言います……。よろしく、お願いします……っ」


「ああ、そういえば、スインクの双子の妹って、言ってたな……スインクが」


「は、はい……そうなんでございます……です!」


「よ、よろしく、ナシエ」


「は、はい……! よろしくお願いします……!」



そこで、3限の休憩時間終了のチャイムがなる。


こうして俺は、4限前にして、ようやくアイとの会話に成功し、さらには、性格占いという遊びの名の下に、新たに2人のクラスメートと知り合いになることが出来た。

アイは俺のことを嫌っていたのではないのか、という不安も残るが、とにかく今は、アイと会話ができたことを、ただ純粋に、心の底から、嬉しく思っていたのだった。


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