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異世界の学園がもはやギャルゲー  作者: ヘルプ
第2フェイズ 隣の教室編
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戻らない、夢、格好いい ロクヌイ・ロータス ⑦


「戻らないのか」

「戻らない」


俺は今、俺に背を向けてあぐらをかいているロクヌイを右目の痛みに耐えながら見つめている。場所は屋上塔屋の天井上。この塔屋の下には、ゲル状のモンスター、通称ゲルモンがうようよとウジ虫のように沸いている。

どうして沸いているのか。どこから沸いてきたのか。それを知る術を、今の俺は持ち合わせてはいない。


しかし、俺はロクヌイをゲルモンだらけのこの屋上から連れ出すという使命がある。

勝手に使命感にかられているだけかもしれない。

それでも、黙ってここから立ち去るわけにはいかず。

俺はただ、何を話し掛けても良い返事をくれないロクヌイに対し、心を開いてくれることを祈るばかりだった。


「なあ……いつまでそこにいるつもりだ」

「……わからないな」

「どうしてわからないんだ」

「……自分の胸に聞いてくれ」

「……」


自分の胸に……って、無理だろ……。


……返事はしてくれるが、すげない返事ばかり。

しかし、いつまでも、無意味な問答をしていても仕方がない。 

俺はロクヌイが戻らない理由について、本気で考え始めた。


「確か、ロクヌイは、1限目にはもう、屋上に行ったんだったよな……」

「……ああ」

「ってことは、ベリエール先生に言われたことで、悩んでいたのか……?」

「……」


俺の言葉に、ロクヌイはびくっとして黙った。図星か。


「それで落ち込んで、ここに来たのか」

「……いや、それは違うな」


俺が図星2連チャンを狙うと、ロクヌイがおもむろにそれを否定した。

そして、初めてこちらを振り返ると、真っ直ぐな瞳で俺を見つめ返し、口を開いた。


「落ち込む、というより、私はわからなくなったんだ、自分に対して。夢、と言えば聞こえはいいが、要は、どうやって今後、生計を立てていくのかっていうことだろう……? やりたいことはある。だが、それだけだ。それを生業に出来るのかや、ずっと続けていきたいかと問われれば、私はその問いに首肯しかねる……。だから、一度、冷静になりたかった。だから、ここに来た。そして私は、ここにいる。……私は、自分を見つめ直すまで、ここから動くつもりはない。……まあ、今はベリエールの授業を聞く気になれないっていうのもあるがな……。……とにかく、そういうことだ。わかってくれるか……?」


「……」


一気に思いの丈を述べられてしまい、そして何も考えていない将来の夢について語られ、俺は閉口せざるを得なくなってしまう。

ロクヌイは何も考えていない俺とは違い、しっかりと考えていたのだ。

そこまで言われてしまっては……もう俺は、何も言い返せない。

言い返せるような男ではないのだ、俺は。


もう俺は、帰るしかないだろう。

1人で、教室に。否、保健室に……。

そう思いながら、下を見る。


「……」


……いや、駄目だ。

下にはゲルモンがうじゃうじゃいる。

ロクヌイの言い分は分かったが、このまま俺が帰れば、ロクヌイはゲルモンの中の紅一点。

ゲルモンが男なのかは定かではないが、なんにせよ、このまま帰るわけにはいかない。


「……わかった。じゃあこうしよう。ロクヌイは、ここにいていい。だが、この下にいるスライムは、危険だ。だから……」

「……?」


俺がそこで間を開けると、ロクヌイが首を傾げて続きを待つ。


「だから……俺が、こいつらを、全て燃やし尽くしてやる」

「……なに!?」


ロクヌイが、予想していなかったのだろう俺の言葉に、唖然とする。


俺はロクヌイに背を向けると、右目に宿る魔眼を発動させた。

俺は、学園での魔眼使用を邪神に禁じられている。

邪神曰く、このことがバレれば何か大変なことになるらしい。

だが、背に腹は変えられない。先生に言ったところで、今度は駆除をする先生が危険な目に晒されることになるだろう。

なら、俺がやってしまった方がいいに決まっている。

一昨日だったかの朝に、俺は一匹、邪悪なる闇の炎でゲルモンを焼き殺している。

効果は立証済みだ。技が出ることも実証済み。


なら、話は早い。


断続的に右目に痛みがあるが、というか、ここに来て痛みが増している気がしているが、まあいい。

俺は手の平をゲルモンの支配する屋上へとかざし、適当なポーズを決めると、新しく考えた闇炎の名前を唱えた。


「闇の業火に処されるがいい……邪悪シャドウなるブレイズ!」


俺の言葉と同時、イメージした通りに俺の手の片から渦巻いた闇色の爆炎が破壊光線が如く、ザケルガが如く放射される。

地面に触れるや否や炎が辺り一面に広がり、息つく暇もなくゲルモン共が全て消失した。


ゲルモンの消失後、俺がかざしていた手の平を下ろすと、屋上を支配していた炎も嘘のように消えた。


「……ふぅ」


俺は一息つく。

後ろを振り返ると、ロクヌイが口をわなわなさせていた。


「お、お前……」


ロクヌイが、やばいものでも見てしまったような顔で言う。

やっぱ、やらない方がよかったかも……、そう、その顔を見て、俺は顔を引きつらせる。

とにかくこのことは黙認してもらうしかない。

そう思い、俺は言った。


「……すまないな。どうやら、俺は、学園内でも、魔法が使えるようだ。しかし、どうか、このことは、他の人には黙っていてくれないか」


俺は、とりあえず口止めをした。

こんな口だけの口止め、もしかしたらすぐに言いふらされてしまうかもしれない。

だが、ロクヌイなら、言わないでくれる。そんな気がした。


しかし、俺の考えとは裏腹に、ロクヌイは別のことを思っていたようで。


「か、格好いい……」

「え」


初めて見る、ロクヌイの頬を上気させた顔に、俺は思わず、え、と声が出てしまった。





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