プロローグ ~始まりの月夜~
「おい、レ……オス……」
途切れ途切れ、声が聞こえる。
――――誰かが……呼んでいるのか……?
声に答えようにも体に力が入らない。
全身を支配している感覚は、ふわふわとした浮遊感だけだ。
沈んでいく意識の中でようやく彼は、自分が夢の中を彷徨っている事に気付いた。
「レイオス! レイオス!」
「うっ……」
意識を失っていた彼、レイオスが目を覚ますと見知った顔が飛び込んできた。
「良かった……まだ生きてる」
まだ意識がはっきりとしない。
ただ、さっきの声の主が親友のオーフィスである事だけは確かなはずだ。
「立てるか?」
「大丈夫……」
オーフィスの肩を支えにしながら、ふらふらと立ち上がる。
……ひどい眩暈がする。
だいぶ気持ちが悪い。
「ア―ミック城で何が起きたか、わかるか?」
レイオスはぼんやりとした頭を押さえながら、記憶を辿っていく。
「ああ……いつものように部下たちと夜の城門の警護にあたっていたんだ」
「それで?」
「その途中、急に意識が遠のいて……」
レイオスはハッと我に返った。
――――そうだ!部下の近衛兵たちは!?
弾けるように振り返り、辺りを見回す。
「なッ……!」
言葉が詰まった。
白銀の鎧に身を包んだ近衛兵たちが一人の例外もなく、倒れていたのだ。
それだけではない。
夜半、決して開かれるはずのない城門。
それが今や、誰でも入ってきてくれと言わんばかりに開いているではないか!
慌てて近くの一人に駆け寄り、竜の翼を形どった兜を取る。
近衛兵は傷一つなく、まるで魂だけ抜き取られたかのように、事切れていた。
「誰がこんな事を……ッ!」
血がにじむほど強く、唇を噛みしめる。
「感傷に浸るのは後にしろ! レイオス。俺たちには、悔やむより先にやるべき事がある。」
「……まずは陛下の安否を確認しないとな。」
――――それが今、俺たちが死んでいった仲間にしてやれる最大の供養になる。
そう心の中で付け加える。
きっとオーフィスも同じなんだろう。
手に馴染んだ愛剣の柄を握りしめる。
「覚悟はいいな、行くぞ……!」
「ああっ!」
この先に何が待っているのか、一体何が起きているのか。
二人は禍々しい雰囲気をかもし出す城内へと、足を踏み入れた。