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ラブカクテルス その49

作者: 風 雷人

いらっしゃいませ。

どうぞこちらへ。

本日はいかがなさいますか?

甘い香りのバイオレットフィズ?

それとも、危険な香りのテキーラサンライズ?

はたまた、大人の香りのマティーニ?


わかりました。本日のスペシャルですね。

少々お待ちください。

本日のカクテルの名前はお化けの話でございます。


ごゆっくりどうぞ。



僕はお化けだ。

小さいお化け。

実は昨日お化けになったばっかりで、よくお化けのことを知らない。

お化けって何をすればいいんだろう。

僕はフワフワと漂い、とりあえずお化けであることを少し楽しんでみた。

するとそこに大きいお化けが来て、僕に、こんなところで何をやっているのかと聞いてきた。

僕は、はじめまして。昨日お化けになったばかりの小さなお化けですと挨拶をした。

すると、何だ。新化けかと、通り過ぎようとしたので、僕は呼びとめた。

すみません。大きいお化けさん。教えて欲しいのだけど、お化けは何をすればいいのか聞かせてもらえないでしょうか?

そんな僕に、大きいお化けは、そんなことも知らないでこんなところを漂っているなんて、変なお化けだな。そういうと、着いて来なさいと、フワフワ飛んでいくので、僕も後を着いていった。


大きいお化けさんは、ある町のある家の空の上で、僕に止まるように言うと、その家を指差した。

その家の二階の窓にはカーテンが敷かれ、夜も遅いのに、子供がはしゃぎ、遊び回る影がはっきり、そのカーテンに映っていたのだった。

大きいお化けさんはそれが僕らの仕事の種だよと言った。

僕は首を傾げると、大きいお化けさんは、お化けのすること、つまりは仕事だ、それは夜遅くまで寝ないで起きている子供達を、雲の上にあるお化けの国に連れていくことだよ。と言った。

お父さんやお母さんの言うことを聞かない悪い子供だからね。とも付け加え、そして大きいお化けさんは、僕の背中を押して、さぁ、せっかくだから小さいお化け君にあの子供を任せるよと言った。

僕はそうか、それがお化けの仕事かと、その家にフワフワ近づいていった。

窓の向こうにはやはり、子供の遊ぶ声と、その子供のお父さんとお母さんの声が聞こえてきていた。

お父さんもお母さんも、子供に早く寝なさいと言って怒っているようだったが、それに対して子供の返す声は、寝るなんてやだよーのわがままな声だった。

僕はお化けの本能に従って、部屋の中にスウッと入り込んだ。壁をすり抜けて。

そこは、可愛らしいぬいぐるみが沢山置いてあるベッド。フカフカの毛布。そしていつまでも寝ない女の子がいた。

その女の子は、誰ととでもなく、一人でベッドに座り、沢山のぬいぐるみの何匹かを引っ張り出して座らせると、オママゴトをしているらしく、それに夢中で、お化けがいることさえ気付かない。

というより、見えないのかな?

僕はその子の前で試しにわざと、うらめしや〜とやってみたが、やっぱり見えていないようだった。

僕は小さくため息を洩らして仕方なく仕事を済ますことにした。

僕はその子の後ろに回り込み、せいので背中に抱きつくと、その子の中にいた白くて温かい、ホワッとしたものが僕の手の中に現れた。

その時、

そうその時僕は、何だか、思い出した。

そうだ、僕も昨日まで子供だったんだっ!

その白くホワッとしたものを手放すと、それは女の子の口に、まるで吸い込まれるように戻っていき、そして女の子は何もなかった顔をして、ウツラウツラしながら、やがて寝てしまった。


僕はあっけに取られてその様子を見ていて、自分の今置かれている状況を呑み込んだのだった。


僕は急いで壁をすり抜けて、さっきの大きなお化けを探した。

月がギラギラと輝くそれを背にして、フワフワ浮いていた大きなお化けは、慌てて飛んできた僕に驚いた顔をして、どうしたの?もう子供を捕まえてきたのかい?ん?子供は?と聞いてきた。

僕は言った。

どうしたら人間の子供に戻れるのか、と。

大きなお化けは首を傾げて、どうしてそんなことを聞くのかと、不思議そうな顔をした。

僕は言った。

昨日まで僕は人間の子供だったんだ。

すると大きなお化けは、知ってるよ。私が捕まえたんだもの。と顔をにこにこさせて笑った。

僕は泣きながら怒った。

なんで僕をお化けになんかしたんだよ。戻してよ。

すると大きなお化けは、

だってだって君は夜も遅いのに、お父さんやお母さんの言うことも聞かずに全然寝ようとしなかっただろ。だから僕はそれを見て君を捕まえたんだ。

だってそれが私達、お化けの仕事だからね。

そういうと、大きなお化けは胸を張ってエッヘンと、得意気な顔をした。

僕泣いて頼んだ。

人間の子供に戻して、戻してよっ!

大きなお化けは困った顔をして腕を組み合わせて、

そんなこと言われても私では分からないよ。と、うーんうーんと唸り顔を赤くしだした。

それでも僕は大きなお化けの腕を掴み、お願いだよと泣いて頼んだ。

困り果てた大きなお化けは、

それならと雲の上のお化けの国のお化けのお城に、お化けの中では一番偉いお化けの王様がいるから、そこで聞いてみてと言って、痛いから腕を離すように言った。

僕はあいかわらず泣きながら、お礼を言うと、勢い勇んで雲の上に向けて飛び上がった。

雲の上に飛び出した僕の目の前には、それはそれはお化けのものらしいお城が不気味にそびえ、門の前まで行くと、ギギギと軋む音と共にそれが大きく開かれた。

僕はすり抜けて入るつもりだったが、わざわざ門が開いたのでそこから入ることにした。

門をくぐるとそこには@お化けの国と書いた看板があった。

間違いないようだった。

その国に入ると、僕くらいであろう、小さな子供達が不自然に並べられたベッドの上でピョンピョンと跳びはねて遊んでいた。

それはそれは楽しそうだったが、中には遊び疲れてきたような子供もいて、やがてその子が眠り出すと、なんとその子はボンッと音を立てて煙りに包まれ、晴れた煙りの向こうにいたのは、驚くことに小さなお化けだった。

僕はそのお化けになる瞬間を目の前にして、何だか怖くなって背筋をゾクゾクさせながら、目立って見えるお化けのお城に逃げるように入り込んだ。


暗いお城の中には、それは大きな、王冠を被ったお化けの古い絵が壁に何枚も掛けられ、その顔は、絵であるにも関わらず目だけが動き、僕の足取りを追った。

僕は気味が悪くて先を急いだが、なかなかお城の中の王様は見つけられずに、いろいろな部屋のドアをノックしては開けてみた。

長い長い不気味な廊下をさらに進むと、それまでにない、高く上がった階段が現れた。

僕は仕方なくそれを上がっていくと、その一番上にはベッドがあり、立派な王冠を被ったお化けが何やら一人で沢山転がるぬいぐるみの中で遊んでいた。

僕は恐る恐る声を掛けた。すると、そのお化けは、君は誰だいと驚いて聞いてきた。

僕は勇気を出して、昨日お化けになった小さいお化けですと答えた。

するとお化けの王様は、よく来たね。歓迎するよと、ぬいぐるみを持ったままの手を大きく広げると、嬉しそうに、もっと近くに来るようにと言った。

僕はそのベッドに近づくにつれ、そのぬいぐるみが置かれている量の多さに驚き

、思わず声を挙げるほどだった。するとお化けの王様は、これかい?これが欲しくてココにきたの?欲しければ何個でも持っていっていいんだよ。と言った。

僕は大きく首を横に振ると、そうではなくて、人間の子供に戻りたいのだけれど、どうしたらいいか教えて欲しいと頼むと、お化けの王様は簡単にいいよと言った。

僕はこれで元に戻れると喜びはしゃぎ、お礼をいいながらお化けの王様の方に更に近づいて耳を傾けた。

王様は、簡単簡単。このお城の塔の天辺から地上に向けてまっさかさまに落ちればいいんだと、にこにこして話し、そして、そのかわり、その塔にお化けが昇ると、君は元の姿に戻って当然飛べなくなる。しかも下に落ちて地面につくまでにもし、目を閉じたなら君は、

僕は息を飲んだ。

君はこれになっちゃう。

お化けの王様は自分が手に持っているぬいぐるみを僕に突き付けた。

僕は少し後退りして小さな悲鳴を上げた。するとベッドの上のぬいぐるみ達はシクシクと泣き出し、それを聞いたお化けの王様は、うるさいと、そのうちのいくつかのぬいぐるみを引き裂いた。

そして僕にどうする?お化けのままの方がいいと思うけどと、覗き込んきて、薄笑いを浮かべたのだった。

僕は下を向いたまましばらくためらったが、やはりお父さんとお母さんに会いたいと思い、塔に昇る決意を示した。お化けの王様は、どうぞどうぞと、その部屋の奥にある扉を開けて、僕を促した。



階段を昇ると、後から後から気味の悪い笑い声が僕の足に絡みつくように聞こえてきた。しかし段数を昇り、それが増えるごとに僕の姿はお化けの王様が言った通りになってきてもいた。

僕は暗く、不安で怖かったが、その姿を見て、もう少しで家に、お父さんとお母さんのところに戻れると、震える体に力を注いだ。


塔の天辺は風が吹きゴウゴウと吹き荒れていて、空の上の空は真っ黒で、稲光がまるで怒りをあらわにしつているように狂い走っていた。

天辺は狭い円形をしていて、周りを石の手摺が取り巻き、一部が、人が一人やっと通れるくらいに区切れているところから、跳ねだし台がそそり出て、まさにそこから飛び込めと言わんばかりの形をしていて、僕はいよいよ勇気を出してそこに足を進み出た。

つかまっていないと飛ばされる程の風。

震えが一層ひどくなる足。

僕はそんな中、勇気がどれくらいのあてになるものかが不安になり、進み出た足を戻そうとした。


ダメだ。やっぱり怖い。


そう思った瞬間、下の方からお父さんとお母さんの呼ぶ声が聞こえた気がした。

僕ははっと、その声で二人の笑顔を思い出し、そしてその声を頼りに、元の体に向かって勢いよく飛び込んでいったのだった。


凄い空気の壁が僕に向かって、まるで体に魂を帰さないようにしているかのように邪魔をして、そのうち息をすることもできなくなり、苦しさに心が悲鳴をあげているのがわかった。

でも僕は耐えた。きっと苦しいと思うのは、心がお化けから人間になっている証拠だからだ。もう少しの辛抱だ。そう感じたおかげで。

僕の目にはだんだんと地面が近づいてきていた。

僕はもしあれにまともに当たってしまったらどうなるのだろうと思いはじめ、その想像から浮かび上がる痛みに、再び恐怖を感じだしたが、今からそんなことを言い出してみても時既に遅しであった。

凄い風圧で目から涙がボロボロ流れ出て止まらない。乾いてきたせいもあり、ショボショボした目は一層痛みを増した。

もう限界だ。そう思いながら僕は自分の心を最後の最後で負けないように、大声を挙げることで、せまりくる地面を見続ける勇気を振り絞ったのだった。

そしてとうとう僕は顔から地面にぶつかった。



ふと気付くと、僕はベッドの上にいた。

焦って手を見てみると、子供の手、僕の懐かしい手だった。

その手を顔に当てて、あちこちを触ってみると、僕は僕に、確かに戻っていたことがわかった。

僕はさすがに、やったぁーっと跳びはねたが、お父さんとお母さんの、もう寝なさいっの声が聞こえた途端、布団に潜り込み、

わかったよ。もうお化けなんて懲りごりだものと、目を閉じて眠るのだった。


おしまい。



いかがでしたか?

今日のオススメのカクテルの味は。

またのご来店、心よりお待ち申し上げております。では。

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