現在 4
立ち去って行く男を呆然と見送る。
静かに受け取った紙を広げる。
そこには携帯番号とアドレスが書かれていた。
「連絡先じゃないですかぁ?」
後ろから様子を見ていたアルバイトの子が、私に声を掛ける。
「さっきの人よく店に来てましたもんねぇ」
明らかに楽しんでいる物言いだ。
「お疲れサマで~す」
そこに交代の男の子がやって来た。
「お疲れ~」
「何か楽しそうっスね。何かあったんスか?」
「それがさぁ、よく店に来ていた常連の男の客いたじゃん?」
「誰のことですか?」
「ほら、片瀬さんのレジを狙って来るやつ」
「あ~!ちょっと太ってて、前髪長い、根暗そうな奴」
「そうそう!そいつが片瀬さんに連絡先渡したんだよ~」
「マジっスか!?」
ふたりは楽しそうに、大声で笑っている。
私はため息とともに、紙をくしゃっと握り潰した。
「あれ?連絡しないんですか?」
女の子の島田が聞いてくる。
その言い方は、明らかに興味津々だ。
「する訳ないでしょ。あなたがするならあげるけど?」
「いりませんよ!あんなオタクっぽい奴の!」
「じゃあおもしろがって言わないで。こう言うの興味ないから」
少し睨み付けるように言うと、紙をゴミ箱に捨てる。
「…っ!!」
私の言い方が気に入らなかったのか。島田の表情が苛立ちに変わっていった。
「西浦君。交代」
「あ、はい」
私はそれを無視して、交代の男の子に引き継ぎを話し出す。
「じゃ、お疲れ様」
話が終わってすぐ、後ろに向かう。
「何なのよ!あの態度!だから彼氏も出来ないんだよ!あの女っ!」
「ちょっ!島田さん聞こえますよ」
「聞こえるように言ってんのよ!」
もちろん。その会話は聞こえていた。
だけど私は何も気にせず帰り支度を済ますと、早々に店を出た。