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青天の霹靂とはこの事

初めまして。ノリとリズムで書き始めました。

お手柔らかにお願いします。

「エレナ様! お待ちください!」

 

 後ろから慌ててついてくる男性に振り向きもせず、エリシュナは真っ直ぐ王宮の廊下を歩いていく。

 その物々しい雰囲気に廊下を歩く女官や侍従もギョッとした顔をした。


「アル! あのクソ親父に一刻も早く一撃をお見舞いしなくては気がすまないのです!」


 重たいドレスをまるで軽い羽根のように扱いながら、エリシュナは宰相執務室へと歩を進めた。






 時は数日前に遡る。

 国王陛下に仕える臣下の筆頭、宰相であるレインベルト侯爵の預かるレインベルト領地。国政に忙しく何年も領地に帰っていない侯爵に代わり、この地の荘園屋敷の主がレインベルト侯爵令嬢である。

 それがわたくし、エリシュナ・レインベルト。

 22歳ではあるが未婚である。自分で言うのもなんであるが、別に器量は悪くない。上位貴族らしいお姫様然とした見た目であると、侍女や護衛は口を揃える。見た目は。


「何なのよぉぉぉぉこの手紙はぁぁぁぁぁ!?」


 珍しく仕事という名の署名(サイン)書きをする事もなく、領地をブラブラ散歩してたまには酒場(バー)にでも顔を出そうかと予定を組んでいた。そこへ、フットマンがお父様からの手紙を持って来たと言ったので、執務室で開封したところの第一声がこれである。

 

「エレナ様、旦那様から一体どんな手紙が来たのですか?」


 わたくしの怒りにオロオロしている様子ではあるが、執事頭がこの場にいるためアルは丁寧な言葉で話しかけてきた。

 アルベルト・ヴァグナーが正式な名前である。

 領地が隣接するヴァグナー子爵の次男である。子爵家は台所事情が厳しいらしく、次男である彼は実家で疎まれたらしい。(2人目は高位貴族の嫁に出せる女の子が良かったんだとか)

 そこで幼いアルは、レインベルト領の騎士団を退役した元騎士にタダで剣を教えて欲しいと直談判に来たのである。在りし日のわたくしの母はアルに同情して、わたくしの遊び相手兼未来の護衛として多岐に渡ってアルの面倒をみたそうである。

 今では、レインベルト領騎士団の若き団長としてわたくしの護衛を務めている。

 

 ・・・・・・と言えば聞こえは良いが、下町散策も夜遊びも馬の遠乗りも、令嬢教育以外の刺激的な外の世界にわたくしを連れ出したのは、まごうことなく彼である。事実に即して言えば、わたくしと彼は幼馴染の悪友である。


「次の王宮夜会に出席しろって何今更命令口調なんだぁぁ! 何年も領地に放任していたくせにぃぃぃぃ! なぁぁにが『国王陛下に可愛い娘を紹介したい』だ! 白々しい!!」


 ぜーハー肩で息をしている、一応侯爵令嬢である。

 アルベルトは不機嫌そうに片眉を釣り上げた。アルベルトは別にこの程度の無作法でわたくしを叱ったりしない。


「確かに・・・夜会はレビュタント以降参加してませんが、旦那様は何も仰いませんでしたね。ならば本音は国王陛下への紹介か・・・」


 後半は独り言のようだが、アルベルトの勘は鋭い。伊達に歴戦の団長を務めていない。彼がそう言うのなら、父親の本音はそこだろう。


「姉上。叫び声が聞こえましたが如何なさいましたか?」


 興奮のあまりノックに気付いていなかったようだ。扉を侍女に開けさせた弟のフレッドが顔を覗かせた。


「フレッド様。実は・・・・・・」


「えっ? 宰相閣下がそんなことを? 悪い予感しかしませんね、姉上。王都まで確認に行きましょう。まさか唯々諾々参加するなんて考えておりませんよね?」


「まさか。アルフレッドの言う通り、このままでは何も分からないので直に父上(・・)に問いただしますわ」


 弟のアルフレッドは父親を嫌っている。嫌っているのを通り越して無視だ。父親のことを宰相閣下と呼ぶくらいだ。

 一応弟が跡取りなので、もう少し関係を軟化させて欲しいのが姉の願いだ。

 そういう理由から、王都行きは弟も連れて行くことにした。執事頭に旅行の手配を頼み、早馬を出して王都の屋敷に連絡、侍女頭に荷造りを指示した。手際の良さは父親不在の数年間で格段にレベルアップしている。単にアルベルトと遊んでばかりだった訳ではない。




 そして冒頭の王宮に戻る。

 アルベルトのひと睨みで執務室前の近衛騎士を蹴散らして、扉を開け放った。


「お父様! 喧嘩を買いに来ましたわよ!」


「エリュシナ! 夜会に出てくれ・・・・・・」


 ドカッと重厚な執務机にハイヒールを踏み鳴らし、山積みの書類を撒き散らしながら言い放つ。


「お母様の死に際にすらお越しにならなかったお父様が、わざわざ(・ ・ ・ ・)わたくしをお呼びになるなんて、一体どのようなご用事かしらぁぁぁ?」


 カンカンと踵を踏み鳴らすと、背後からヒエっと叫び声が上がった。軟弱な文官め。


「そ、そうだな。まずは説明しよう。エレナ、次の夜会の後に後宮に入りなさい」


 その瞬間、わたくしは「縁を切りますお世話になりました」と棒読みで呟き身を翻すのだった。




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