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誰が為に  作者: 梨乃 二朱
モノクローム
9/21

一話:人形遣い

 五年前の動乱期に於いて、戦線に投入した我が子の数は、ざっと二十体。

 その内、無事に帰還したのは五体。

 後は全員、戦場に散っていった。


 “人形遣い”はその生き様と死に様の全てを知っている。

 自分で造ったホムンクルスだ。管理権は自分にある。


 ある子は部隊の殿として、単騎で勇猛果敢に戦い、その役目を十全に果たし花のように散った。


 ある子は撹乱の為に敵陣に一人で乗り込み、人としての形が砕け散るまで集中砲火を浴びた。


 ある子は戦場で重傷を負い、治療すれば助かるというのに、薬品が勿体無いという理由から放置され、助けを求めながら、死を懇願しながら朽ちた。


 ある子は昼は孤軍で部隊を守り、夜は部隊の慰み物にされ、精神を追い詰められた末に自壊した。


 十五体が十五通りの造り物としての人生を生き、そして十五通りの無惨な最期を迎えた。

 生後数日、生後数時間という短い人生を、ただ人を殺す為に、ただ人に殺される為だけに生きた。


 “人形遣い”はこの結果を嘆き、人間の非情さと冷酷さに恐怖すると共に怒り、そして何より我が子を見殺しにした自らを憎んだ。しかし、それでも戦うためのホムンクルスを造る事を止められなかった。

 一人が死ぬ前に一つを造り、一人が死んだら一つを献上する。そんな生活が五年も続いた。


 もう、心がボロ雑巾のように荒み、来る日も来る日も自分への嫌悪感に苛まれ続けた。

 直接手を下したわけではない無いにせよ、見殺しにされると分かっていながらも造り続けたのだ。大量殺人犯と何が違うというのか。


 嘆き、悲しみ、怒り、憎み、絶望した“人形遣い”は、それでもホムンクルスを造る事を止められない。

 その理由は、“人形遣い”が魔術師として残った、愚かな探求心を棄てきれなかった事にあるのだろう。


 己の限界、“人形遣い”としての限界を追い求め、いつかは兵器として以外のホムンクルスを造れると信じて、研究を止めなかった。

 その集大成が『Dシリーズ』の暗殺特化型ホムンクルスだ。

 身体の細部に至るまで気配遮断の魔方陣を刻み、体外への魔力漏洩を可能な限り減らした。そして能力はオリジナルが持っていたランク『EX』の『構造変化』能力を付加させる事で、武器をその場で調達でき、始末も容易で足がつかないという、正に暗殺の為のホムンクルスだ。


 しかし、“人形遣い”が誇る性能はそこではない。

 今までの『Aシリーズ』から『Cシリーズ』には無い機能として、“心の成長”機能を付加した。

 表向きは暗殺者と周囲の人間に悟らせない為、というものだが、本当は違う。ホムンクルスに個性を持たせたかった。


 何かで喜び、何かで悲しみ、何かに怒り、何かを悼む。そして誰かを愛する。

 そうして出来上がるのは、量産のホムンクルスではなく、一個の人間なのだ。身体は違えど、心は人間になれる。


 製造数はコストの問題で、僅か二体。そして密造した一体のみだ。

 一体は特殊部隊が持って行き、一体はどこぞの御偉方が大枚叩いて裏会から買い取って行った。密造した一体は、自分の手元に置き、助手として精神育成を図った。


 しかし、“人形遣い”は人形を学ぶあまり、人間への理解が浅かった。

 幾ら人形の質を良くしたところで、人形は人形。心を持ったホムンクルスと言えど、人間の目には、所詮ただの利口な兵器としか写らなかった。


 心を持たせた事は、“人形遣い”をただ苦しめただけだった。

 特殊部隊に配備された我が子は、自らを兵器と自らの心で認め、自我を殺そうと必死になっていた。御偉方が買った我が子は、自らを暗殺者と自らの心で認め、自我がその在り方の虚しさに苛まれていた。


 どちらにも共通することは、ホムンクルスは心を持ったところで、己をホムンクルスとしか認識出来なかったという事だ。

 人形は決して人間にはなれないという、一つの無慈悲な結論に“人形遣い”は辿り着いたのだった。


 そしてそれ以上に“人形遣い”を自責した事態が、皮肉にも心を持ったホムンクルスの“淡い初恋”だった。

 その決して叶わぬ恋心こそ、“人形遣い”を地獄へ陥れる決定打となったのだった。

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