十二話:恋は叶えし乙女は悲し
額辺りまで刀の柄を持ち上げた朱鳥来美は、「殺すべき人間は、ここに居る」と静かに呟き切っ先を真下に持ち変えると、それを腹部目掛け一息に降り下ろした。
刀は深々と少女の体を貫き、傷口から溢れ出す血液が白いキャミソールに赤い染みを作る。
「な――――何をッ!?」
鳴海翔梧は驚愕に言葉を失う中、木羽祐吾は何の反応も示さずゆっくりと銃を下ろした。彼ほど感覚の優れた能力覚醒者なら、彼女の行動を予測出来ていたとしてもなんら不思議では無い。
「何って、私は朱鳥来美であった私を、殺しただけ……いや、朱鳥来美がドミニオンを殺したのか……」
彼女体が、まるでスローモーションのようにゆっくりと倒れる。
翔梧は反射的に駆け出し、彼女の体を抱き止めた。
「また、助けてくれるの……? フフッ、貴方は優しい……本当に優しい…………」
「喋らないで! 絶対助けるから! ――木羽さん、救急車を!」
しかし、木羽祐吾はそれに対し、ゆっくりと首を左右に振った。
もう助からない、と彼は分かっているのだろう。
「だから、殺したく無いの……」力無く持ち上げられた手のひらが、翔梧の頬を優しく包み込む。
体温の奪い去られた冷たい手のひらは、けれど優しい温もりを伝わらせる。
「好きだから……貴方みたいな優しい人、好きだから…………」
「ダメだ……ダメだ、ダメだダメだ! そんな簡単に死を選んじゃ、ダメなんだよ!」
「何だろう、これは屈辱とは違うな……。あぁ、そうか……これって、恋なんだね…………。初恋って、単純な癖に苦しいんだ…………」
彼女は柔らかく微笑んだ。
本当に幸せそうに、少女の無邪気な笑みだった。
頬を包み込んでいた手のひらが、ゆっくりと滑り落ちる。翔梧の中に芽生えた、淡くて温かい想いを、その手の中に納めながら。
「……来美ちゃん?」
光を失った黒い瞳には、もう何も写ってはいなかった。
二人分の淡い初恋を胸に、最新鋭のホムンクルスは生命活動を停止したのだった。
「俺も優しい人は好きだ……。君は、こんな誰にも相手にされない探偵被れを、信じると言ってくれた優しい人だ…………。だから、好きだ…………」
翔梧は冷たくなった朱鳥来美の体を抱き締め、絞り出すような声で囁く。
溢れ落ちそうになる涙を堪えながら、翔梧は自分の気持ちを必死に伝えた。
黄泉路を歩む彼女へこの想いが僅かでも届いてくれと、彼女の体を力強く抱き締め祈りった。
絡み合う二つの白い少女と黒い少年の姿は、まるでモノクロの螺旋の渦のようだった。
悲劇に幸せを掴み、悲劇に幸せを逃した二人の淡い夏の初恋は、その日の白い昼に始まりその日の黒い夜に終わりを迎えたのだった。
外では雨が降り始め、夜の闇は一層色を濃くしていく。明日には晴れると良いのだが。




