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誰が為に  作者: 梨乃 二朱
モノクローム
19/21

十一話:人形の個性

 木羽祐吾が宿泊先のホテルに訪れた事については、大して不可思議なところはない。先日、ボスのポケットに小型の追跡装置が入っていたのを見付け、近いうちに来ると予想出来ていた。

 しかし、今度の交渉相手はボスではなく、ディケードを指名した事については、少し驚いた。


 いくらボスの口が固いと言えど、ただの兵器を尋問しようなんて、正気の沙汰とは思えない。

 ホムンクルスが飼い主の意向に逆らうような真似をするなんて、まさか思ってもいないだろう。が、彼はディケードと、それも二人きりで話したいと言った。


 流石にそれを許すボスではなかった。兵器にプライバシー等は無い。

 話しの場は、ボスが予約したホテルの部屋になった。恐らく盗聴等を警戒しないでいい場所は、ここくらいだろうから。


「先日、偽皇帝を確保しようとしたが、死なれてしまった。刀で腹部を刺し貫いた。自殺だよ」


 やりきれないとでも言いたげに、木羽祐吾は話を始める。

 そのニュースなら、ディケードも知っている。

 芒原市という田舎町を恐怖の渦へ陥れた殺人鬼は、逃げ切れないと悟ってか自ら命を絶った、と完結に報じられた。犯人が何処の誰で、という情報は一切伏せられ、犯行の動機すらも秘匿されていた。

 唯一、その事件を解決へ導いた影の立役者として、この芒原市に住まう少年探偵の名が報じられていた。それはこの話には関係無いだろう。


「その様子だと、真相は一切知らないようだな。教えてやる。犯人は、君と同じシリーズのホムンクルスだ」


 その発言に、ディケードは特に何の反応も示さなかった。

 驚かないと言えば嘘になるが、何となくそんな気はしていた。


 感じていたのだ。つい最近まで、もう一人の自分がこの街に居るという嫌悪感を、先日まで感じていた。

 目的が何なのかは分からなかったが、偽皇帝事件の解決を伝えるニュースが流れる前日に嫌悪感が消えた事で、この事件に何等かの形で関わっているのだと、予想は出来た。


 そうか、当事者だったか。

 それも追い詰められての自殺とは、恐らくは飼い主が用意した安全装置なのだろう。


「……想い人を殺したくないという理由で、自ら命を絶った」


 その発言は、ディケードの内の何かを激しく揺さぶった。それは体にも現れたらしく、口の中が急激に渇き、あまりの苦しさに咳払いが出た。

 “想い人”、つまり好きな人の為に、生より死を選んだ。ホムンクルスとしては、あるまじき行為である。同情の余地など無い。……はずなのに、どうしてこうも苦しいのだろうか?


 木羽祐吾が哀しみを溜めた瞳でこちらを一瞥した。

 こちらの反応を確かめたようだ。


「私に、は……関係、無い……」


「あぁ、関係無いだろうな。君とは別人の話だ。彼女はドミニオンと名乗った。天使の階級で、“主天使”を表す名だ。――彼女に関わった少年が言っていたよ。天使のように優しい人だ、とね」


 『Dominion』は、『Decade』と同じ時期にロールアウトしたホムンクルスだ。

 顔を合わせた事がある。同じハードウェア、同じソフトウェアの筈なのに、どうしてか彼女の事を別人のように感じた事を、今でも鮮明に覚えている。


 そうか、彼女は恋をして、その想いを誰にも犯されたくない為に、死を選んだのか。

 バカな子だ。そんな苦しいもの、再調整して記憶を弄れば、斬って棄てれるものなのに。


「それを……それを私に話して、何だと言うか? ドミニオンの変わりに、その少年の恋人を演じろと?」


「まさか、一瞬で見抜かれるよ。――ただ俺が聞きたいのは、ディケード、君は今、幸せか?」


 人形に問い掛ける言葉とは、とても思えなかった。

 兵器に幸か不幸かの概念は無い。ただの道具に感情など無い。


「いや、愚問だったな」


 まだ何も語っていないというのに、彼は「君は幸せなようだ」と言って優しげに微笑んだ。

 ディケードは一瞬、何を言われたか分からなかった。が、その言葉は一種の呪いのように、造り物の体を硬直させた。


「時間を取らせて悪かった。もうあんたらに関わる気は無い。だが、あまり悪さをするようなら、相応の対応を取らせてもらう」


「心配するな。もうこの街に用は無い」


 ボスの無愛想な返答に、「そうか」と答えて木羽祐吾は部屋を出ていく。が、ドアノブに手を掛けたとこで「あ、そうだ」と何かを思い出したかのように振り返った。


「悪いついでに、一つだけ。今回の偽皇帝事件には、黒幕となる組織があるようだ。そしてその組織の一人がドミニオンの飼い主で、名前を飯草満と言うそうだ」


 その名前を聞いた瞬間、ディケードは当然ながら、あの常に冷静なボスまで驚いて声をあげた。


「知っているようだな。半月程前に殺された“SP”にそんな名前の奴がいたが、なるほど、ただの“SP”では無さそうだ」


 木羽祐吾はしてやったりと言わんばかりに、「情報どうも」と茶目っ気たっぷりにウインクをして見せた。

 この男、意外と気さくなんだろうか等、どうでもいい事が頭に浮かんだ。


「どうやらまた、お会いできそうだな」


 それだけ言い残して、木羽祐吾は部屋から出ていった。

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