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誰が為に  作者: 梨乃 二朱
モノクローム
14/21

六話:軽んじられる罪

 いつもと同じ。

 遣るべきことはひとつ。


 白から赤、そして街が黒い闇に呑み込まれる頃合いを見計らい、悪者どもは姿を現す。

 わらわらと、自らの腐った欲求を埋めるべく、巣穴から這い出してくる。


 例えば工場勤務の男は、ギャンブルで摺った金を取り戻すべく、押し入り強盗をしていた。


 例えば交番勤務の警官は、補導した女子高生を暴行し、その様子を録画して更なる関係を迫っていた。


 例えば高校に通う生徒達は、楽しいという理由だけで通りすがりの男性を集団で暴行していた。


 例えば小学校勤務の男は、児童を虐待し性的暴行を加え、反抗すればクラスの児童に苛めをやらせていた。


 暗い夜の黒い世界には、それよりも黒い人間どもが徘徊する。

 餓鬼、畜生は罪の意識など持たぬため、欲求が満たされるまで同じことを繰り返す。更正なんて、考える方が馬鹿げている。

 街にへばりつく悪という名の汚れは、悪を以て綺麗に掃除をしなくてはならない。


 今回のターゲットは大学に通う女学生。

 遊ぶ金欲しさに男を誘惑し、ホテルに連れ込んだところを撮影し、それをネタに金を巻き上げている。


 広義には小悪党、だが狭義には死んで当然の悪党だ。

 よって、殺害することに何の罪悪感も抱かない。


 女学生を見失わぬよう尾行し、何処か人気の無い場所へ入り込む瞬間を待った。

 今宵は雨となるだろう。昼間の日照りが嘘のように、空は重たい雲に覆われていた。

 雨は不味い。血の文字が流れて消えてしまう。まぁ、何処か屋根のある場所へ連れ込めば良い話しか。


 追跡して四時間。

 きらびやかな電飾の灯る街で遊び呆けた女学生は、友人達と別れ帰路についた。

 ここでようやく、チャンスが巡ってきた。


 女学生は近道と言わんばかりに、路地裏へと入り込んだ。

 人の気配が、一気に無くなった。


 その辺に落っこちていた金属製の棒を拾い、慎重かつ迅速に女学生に近寄る。女学生は携帯で誰かと話始め、こちらの存在など露とも知らないだろう。

 金属製の棒へ気力を回し、刀へ変身させ、次いで身に付ける白いキャミソールを黒いジャケットに変える。


 これがランク『EX』の能力、『構造変化』だ。

 自分の体より小さい物体に限り、自分の求める理想の形に変化さる事が出来る。ただ他にも条件があり、作ろうとする物質の構造を完全に把握しておかなければならない。

 その辺りは、“ホムンクルス”には関係無い。製造の過程に於いて、そういう知識は既に組み込まれている。故に構造を変化させることなど、呼吸をするより簡単だ。


 後はこの刀を振るい、真っ二つにすれば事は済む。

 音もなく、相手に気取られぬよう素早く近寄る。

 そして振り向かせたところで、腹部にこいつを突き入れ、事切れるまで犯した罪の重大さを理解して貰う。

 それが人造人間に課せられた任務だ。


 いよいよ女学生の肩に手が届く距離まで近付いた瞬間、唐突に右手の壁のドアが音もなく開き女学生の姿を隠した。

 予想外の事態に驚いている内に「そうそう、好きにはさせない」と、開いたドアから時代遅れのマグナム拳銃を構えた青年が現れた。


「木羽祐吾……」


「“Dシリーズ”のホムンクルスは隠密性に優れていると聞いていたが、よもや能力を最大にしてようやく認知出来るほどとはな。そりゃ誰も気付かないわ」


「無駄口はいい。任務の邪魔をするなら、貴方から殺す」


 その瞬間、好意的だった木羽祐吾の印象がガラリと一変した。

 これは不味い、と本能が告げる。

 今、目の前に居るのは、能力調査局で市民の為に働く局員ではなく、冷酷無慈悲な殺人マシーンだ。


 本気で殺し合えば、無傷での帰還は不可能だろう。

 この男は、皇帝の伝説と古典的な銃器を扱うせいで、周囲から大した事の無い一介の局員と思われがちだが、実際は各機関で知る人ぞ知る危険人物として有名だ。


「殺し合いは嫌いだが、やるなら殺ってやる。が、先ずはこっちの用件を済ませてからだ」


 木羽祐吾はゆっくり目を伏せ、もう一度開くと好意的な印象に戻っていた。「中へ入れ。お前に客が居る」と促され、大人しく従った。それが無難な対応だ。

 ジャケットはキャミソールに戻す。が、刀は手放さない。用心の為に。


 背中に銃口を突き付けられたまま、明かりの無い廊下を歩く事に抵抗はあったが、それも直ぐに終わりを迎えた。距離にして五メートル程の廊下を過ぎ、突き当たりのドアを開けると、照明の光りが目を眩ませた。

 それも一瞬の出来事だ。

 しかし、回復した視力が捉えた光景に、今度は違う理由で視界が眩んだ。


「あ、貴方は……何で……!?」


「推理は間違いだったという事さ。本当に残念な事に、ね」


 レストランの厨房らしき場所で、シンクに寄り掛かった姿勢の全身真っ黒な少年探偵は、淋しそうに微笑んだ。見たくない笑顔を、させてしまった。

 この時、朱鳥来美だったホムンクルスは、鳴海翔梧との対面に、戦意を喪失してしまっていた。

 自身の完全なる敗北を悟ったのだ。

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