第一話:コレクション・・・ではなくて・・・
※警告・この小説内には暴力的な表現、グロテスクな場面などが存在します。体調に変化などがある場合、すぐに観覧を中止してください。
今から十数年前、一つの家族が悲しみに包まれた。
「お母さん!お母さん!なんで返事してくれないの!」
雨の中、冷たくなって動かない母親に泣きついている一人の少女と、どうしたらいいのか分からずただあわてている父親。道路の真ん中で車が原形をとどめていないほどにつぶれてひっくり返っている。
「と・・とりあえず救急車を呼ぼう!サチ!じっとしていろよ!」
「お母さんは・・・動かないの?」
「大丈夫だ!きっとお父さんが助けてみせる!」
そして現在・・・。
「サチ、いつまで部屋にいるんだ。夕飯出来たぞ、降りてこい」
階段を静かに下りてきたのは、髪の長い色白の女性。もう二十歳をすぎているのか、身長も大人と同じくらいだ。
「な、なんだ、まだ母さんのことで父さんに不満があるのか」
「ごちそうさま」
「ぬ・・・・・おい、全然食べて無いじゃないか。それにそろそろ家になんか居ないで少しは自分で仕事でもして一人で・・・」
「うるさい!」
家の中がしんとなった。しばらくして父親が、
「まったく・・・毎日毎日・・・文句があるならこの家から出ていってもらうぞ!」
「ああ!いいよこんなバカ親父のいる家なんてまっぴらごめんだよ!」
するとその女の人は、いちもくさんに外へと飛び出していってしまった。
「あ!コラ!待ちなさい!今のは冗談だ!戻ってこーい!」
女はそんな声に聞き耳を持たず、ものすごいスピードで駆けだしていった。
この女はサチ。幼い頃に母親を亡くし、父親と一人で暮らしていた。
「けっ!いいよいいよ!働けばいいんだろ!働いてやるよ!」
家を飛び出したサチ。行く当てもないのにただ走り続けていた。
サチはいつの間にか暗い路地裏に来ていた。働くあてもないのでそのまま歩き続けることぐらいしかサチには出来ない。
「今日どこで寝るんだよ・・・」
サチは自分の中でこれからの出来事につっこみをいれながら歩いていた。
どれくらい歩いていたのだろうか、サチはもう疲れ果てていた。ヨロヨロになっても歩き続けるサチは、死んでしまうのかと思うくらいに暗く、不気味になっていた。
「ハア・・ハア・・・なんだよこの道・・・同じ道歩いてるみたいでなんにも見えないじゃねぇかよ・・・」
サチはその場に座り込んだ。このまま死ぬの?そんなのイヤに決まってる。でもサチには、
「お母さんに会いたい・・・」
死んだ母を思い出すと、死ぬのも悪くはないかなと思ってしまうのであった。
「寝むったら死ねたらいいのに・・・」
死ぬのは怖くない・・・お母さんに会えるなら・・・
そのままサチは、いつの間にか眠ってしまった。
どのくらいたったのであろうか・・・。何時間か、何日か・・・。
「ん・・朝・・・?」
でも朝とは思えない暗さであった。
「なんだ・・・」
サチは少しがっかりした。天国に行けば楽になれるというのに、自分が今いるのは苦しい現実世界だった。
「ん・・・?」
サチは背中に違和感を感じた。後ろに・・・なにかある・・・。サチはおそるおそる振り向いた。そこにはなにかの建物があった。童話に出てきそうなお店だ。看板には赤い文字で大きくこう書かれていた。
『コレクションハウス』
「ん?なんだこれ・・・?」
サチは訳が分からず、とりあえずその店に入ってみた。
「ごめんくださーい。だれかませんかぁー?」
だれもいないのか、そう思って振り返ると、
「いらっしゃい」
「!?」
サチはもう一度振り返った。そこには背の小さいてるてる坊主のような体をした子供がいた。不気味な笑みを浮かべている。サチは少しゾッとした。
「あの・・・ぼくぅ・・・このお店なんのお店?」
「売り物はありません」
聞いてサチはさらに訳が分からなくなった。これはなにかの夢なのかな?そう思ってほっぺをつねってみた。
「痛い・・・現実なの?」
「それでは当店について説明いたします」
店の子供はサチを見上げながら突然説明を始めた。
「この店には私の指定する物をたくさん持ってきてもらいます。そして持ってきた人に金を渡すというものです」
サチは、一応ここが働けるところだというのは見当がついた。
「ここで・・・働いていいの?」
「はい。もちろんです」
そしてサチはもう一つ聞いた。
「お給料は・・・?月給?それとも時給?」
「持ってきた品物によってその場で支払われます」
これはいいんじゃないか?サチは少しこの店に興味を持った。ん?でもなにを持ってくればいいのか・・・?それを聞いてから店の子供に話をすることにした。
「ねぇ、このお店、特になにを持ってくればいいの?」
「動物の血だけです」
店の子供は小さく口を開いた。
「え・・・・・?血?」
「はい。血の量と種類によって値段が異なります。特に・・・」
特に・・・?なんなのだろうか。
人間の血は高値で売れますよ。
サチは聞き耳を疑った。人間の・・・人の血・・・?
「動物の血はせいぜい100円程度ですねぇ」
サチは、前にいる子供が残酷な悪魔のように見えた。
「特に格別なのは、あなたの憎んでいる人の血です」
憎んでいる人・・・憎んでいる・・・恨んでる・・・・・大嫌いな人・・・
「そ・・・それってまさか・・・」
「では血を採ってきてもらいます。麻酔銃をお持ちになってください」
いきなりライフルのような物を持たされてとまどいを見せるサチ。
「こんなのどうやってやれば・・・」
「薬弾を入れて引き金を引くだけ、簡単でしょう?」
「こんなの持ってたら捕まっちゃうよ・・・」
サチはいつの間にかこの店で働いていた。知らず知らずのうちに・・・。
「その心配はありません。店の扉を開けて外に出ると、そこはもうあなたの憎んでいる人のいる家です」
本当なのか。サチは扉を開けた。見慣れた風景が広がっていた。ここは・・・
「家の居間だ・・・」
「さあ、ここに人は住んでいますか?」
「父さんだけが・・・」
「ではそれがあなたの仕事です。さあ、眠らせてこっちへ持ってきてください」
父がいる。新聞を読んでいるようだ。サチは銃をかまえた。撃っていいのか?いいよ。こんな父親・・・・・・どうにでもなってしまえ!
プシュッ
注射器のような細長い弾は、まっすぐに父の方へ飛んでいき、そして深く首に突き刺さった。父はその場で倒れ、そしてサチはガクガクとふるえ出す。
「どうしました?はやく撃って終わらせて下さいよ?」
「は・・はい・・・」
サチは父の体を引きずりながら持ってきた。
「ほう、これはいい血が採れそうですね。少々お待ちください、ただいま集計をしておりますので」
店の子供は普通の子供となんの変わりのない顔で軽くそう言ってのけた。
しばらくして、店の子供が出てきた。
「あなたのお父さんはあまり売れませんねぇ。お返しします」
子供が引きずってきたのは皮と骨だけになったサチの父親だった。
「キ・・キャアアアッ!!」
サチは驚きと恐怖によってその場で腰を抜かした。
「どうしました?血を抜いただけですが」
「イヤ!こっちに持ってこないで!」
サチはその場にうずくまって泣き叫んでいる。
「しかたないですね・・・」
店の子供は死体を投げ捨て、サチのそばに歩み寄った。その顔には少し困ったような表情も浮かんでいた。
「いいですか、君のお母さんは交通事故で死んだのではありません」
「じゃあ・・・なんだってのよ!」
「それは・・・」
沈黙が続いた。そのあとで子供が言った言葉はあまりにも衝撃的な物だった。
「あなたのお母さんは殺されたんです」
え・・・・・・
なんだって・・・?
耳に聞こえたのは、空間を切り裂くような一言。信じられない。お母さんが・・・
「ふ・・・ふざけるな!母さんが殺されるようなことをするはずがない!あんたの言ってる事はデタラメだ!」
「ウソじゃありませんよ」
「証拠はどこにあるのよ!」
「・・・・・」
店の子供は少し黙って、思い切ったようにこう言った。
「ど・・どうしても知りたいのなら・・・この店の地下室に行ってみてください」
ちかしつ?あー、たしかにこういう店にはありそうな物だ。
「な・・なんで?」
「行けば分かります。ただし身の保証はしませんよ・・・」
サチは背筋が凍り付いた。なんなの?怪物か、それとも悪霊か?はたまた毒ガスでもまき散らしてあるのか・・・とにかくもうこんな怖くて苦しくて悲しい思いをするのはうんざりだ。サチは率直に断った。
「いいのですか?最下層に行けばあなたのお母さんの秘密が分かりますよ?」
信じられなかったが、冗談抜きで次々ととんでもないことをしている子供の目を見れば確かにウソではないような気がしてきた。そしてサチは行く気も失せていたのに、
「麻酔銃をちょうだい」
子供にこう言った。
「あなたはこの店に来て恐怖を感じたはずです。そして間近で父親の死も見た。それに自分が罪を犯してしまったことに深く後悔して・・・」
「後悔なんてしていないわ」
サチの言葉は子供の言葉をかき消した。
「これで自由の身・・・もうなににも振り回されない、縛られない・・・あなたのおかげなのよ。後悔どころか、自分とあなたに感謝しているくらいよ」
「そうですか・・・」
子供は少しうつむいて麻酔銃をサチに渡した。それからこう言った。
「どうか・・・ご無事で」
サチはうなずいた。この地下室に何があるのか・・・サチはこれが生涯に残る冒険や名誉になろうとは知る余地もなかったのである。
結構長くなってしまって申し訳ありません。二話では展開を少し早めていきます。少しでも読み込んでいただけたら幸いです。