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11歳の大人

12月3日。朝5時。

11歳になった羽矢は、ベッドからむっくりと起き上がった。

なぜか目が覚めてしまった。


なんだろう……。


いままで味わったことがない気持ちになった。

気持ちが悪いような……お腹が痛いような………でも、どっちでもないような………変な感じ………。


昨日食べ過ぎたかな…………………………。


もう一度寝ようとベッドの中に潜り込んだ。

だがこの不快な気持ちは続き、だんだん痛みも強くなってきた。


お腹痛い……………………。


無理矢理寝ようとしても、全く睡魔がやってこない。

仕方なく、羽矢はトイレに行くことにした。


トイレの電気を点けて、羽矢はゆっくりとトイレに入った。

そして、信じられないものが目に飛び込んできた。


パジャマのズボンが真っ赤に染まっていた。

血だった。

ビシャビシャに濡れている。


羽矢は頭の中が真っ白になった。


なにこれ…………。

なんで血が出てるの………………。

あたし、もしかして、病気になっちゃったのかな………………。

もし助からない病気だったらどうしよう………………。


羽矢の頭の中に、翔太の顔が浮かんだ。

もし死んでしまったら、お兄ちゃんと離れ離れになってしまう。


あたしはお兄ちゃんがいないと何もできない。

羽矢はあせった。

どうしたらいいのかわからなくなった。


とりあえず、濡れているところを拭いておこう。


暗い気持ちでくるくるとトイレットペーパーを巻き取る。

血の量はかなり多めだ。

全部拭き取るのは大変だった。

このことは兄には内緒にしておこう、と思った。

部屋に戻り痛みに耐えながら、朝を待った。




外が明るくなって、羽矢は母親の部屋に行った。

廊下を歩くのがつらい。まだ腹痛が続いている。


ドアをたたきながら、「お母さん!」と何回か呼んだ。

「お母さん!大変なの!起きて!」

声を出すとお腹が痛くなる。羽矢は必死に母を呼んだ。

しばらくして、やっと母の声がした。

「もうちょっと寝かせてよー」

のんきな声が返ってきた。羽矢は少しいらいらした。

「お母さん!あたし、変な病気になっちゃった」

できる限りの声でいった。

すると母は勢いよくドアを開けた。

「どうしたの!?」

羽矢は真っ赤に染まったパジャマのズボンを指さした。

「夜にトイレに行ったら、血だらけになってた。どうしよう、お母さん」

弱い声で羽矢がいうと、母はなあんだ、という顔になった。

「それ、病気じゃないわよ」

「でも血が出てる」

「これは女の子が必ずなるものなの」

「必ず?」

「そう。大人になるために、こういうことが起きるのよ」

母は嬉しそうな顔をした。

「羽矢ももう大人なのねえ」

羽矢はよくわからなかった。まだ自分は11歳。小学生なのに、大人なんておかしい。

「あたし、大人じゃないよ」

「これから大人になるのよ」

「これから………」

羽矢は自分が大人になったらどうなるかなど一度も考えたことがない。


あたし、大人になったらどんな人になるんだろう………………………。


全く想像がつかない。

羽矢は同時に兄のことも考えた。


お兄ちゃんは大人になったらどうなるのかな。

もっとかっこよくなるのかなあ。

そういえばお兄ちゃんって女の子にモテるのかな。

全然女の子の話し、しないけど。


翔太は別に顔やスタイルは悪くない。

わりといいほうだと思う。

ただちょっととっつきにくいので、女の子に人気がないのだろう。

もったいないなあ、といつも羽矢は思っている。


お兄ちゃんは『大きくなったら、兄ちゃんがいなくても大丈夫だ』っていってるけど、本当に大丈夫なのかな……?


「羽矢は大きくなったら子どもほしい?」

母が訊いてきた。羽矢は首を傾げた。

「そんなのわかんないよ。まだあたし11歳だし。結婚だってしてないのに」

「お母さん、羽矢の子ども見たいなあ」


そうか。

あたし、もしかしたら、子ども産むかもしれないんだ。

あたしが子ども産んだら、お兄ちゃん喜ぶかな?


羽矢はいつも兄のことも考える。


お兄ちゃんはどんな人と結婚するのかな?


羽矢は昔自分がいったことを思い出した。

「ねえ、お母さん。あたしねえ、もし結婚するんだったらお兄ちゃんがいいなあって思ってるんだ。お兄ちゃんも同じこといってた。でもね、兄妹だから結婚できないんだって。血が繋がってるから、子ども産んだりできないんだって」

羽矢がいうと、突然母は動かなくなった。

「お母さん?どうしたの?」

「……なんでもない………」

小さく返事をして、羽矢の前から逃げるように立ち去った。




翔太が起きると、羽矢はすぐに駆け寄った。

「お兄ちゃん、今日、あたしちょっと大人っぽくない?」

「何が?」

「あたしが。大人っぽくなってない?」

翔太は大欠伸をして、適当に答えた。

「なんで羽矢が大人っぽくなるんだよ。まだ11歳なのに」

「でもお母さんに大人になったねっていわれたよ」

「兄ちゃんには大人に見えない」

もう一度大欠伸をする兄を見て、お兄ちゃんはだめだな、と心の中で思った。


「お兄ちゃんは、大人になったら、どんな人と結婚したい?」

気になったので訊いてみた。羽矢みたいな子がいいな、といってくれるように期待した。

しかし兄はそうは答えてくれず、

「そんなのわかんねえよ。まだ中学生なんだから」

と眠そうにいった。


さっきあたしはお母さんに子どもがほしいか訊かれたとき、まだ11歳だからわからないって答えた。

お兄ちゃんは結婚したい人は誰かと訊いたら、まだ中学生だからわからないっていった。


兄妹って、返事の仕方も似るんだなあ……と羽矢は思った。











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