わがまま
翔太は小学校を卒業した。
春からは中学生。翔太はうきうきしながら待っていた。
しかし羽矢はかなり嫌がっていた。
翔太が通う中学校と、羽矢の通う小学校はかなり離れていた。
翔太と羽矢は毎朝手を繋ぎながら登校していたが、それができなくなる。
さらに翔太が起きる時間は羽矢より1時間早い。
お兄ちゃん子の羽矢は、いやだ!と叫んだ。
「あたし、お兄ちゃんがいないと何もできないんだよ。一人で学校行くなんて絶対無理だよ」
羽矢の言葉に、母がため息をついた。
「お願いだからいうこと聞いて。もう羽矢は4年生なのよ。そんなこといってたら、みんなから笑われちゃうわよ」
穏やかな声で羽矢にいった。やはり、怒らない。
「お兄ちゃんがいないと寂しいもん。もし、お兄ちゃんが一緒に行ってくれなかったら、あたし、学校行かない」
すねたように答えた。
「羽矢。お願いだから……」
「羽矢。そんなこといってたら、兄ちゃん、羽矢のこと嫌いになる」
母の言葉を遮って、翔太がいった。
すると羽矢は驚いた顔をした。
「お兄ちゃん」
「そうやってわがままばかりいってる羽矢なんか嫌いだ。もう兄ちゃん、遊んでやらないぞ」
「そんな……」
羽矢は泣きそうな顔をした。
「ね、お兄ちゃんもああいってるでしょ。ちゃんと一人で何でもできるようにしなさい」
翔太と母にいわれ、羽矢はじっと何か考えるような顔をし、わかった、と答えた。
「よし。兄ちゃん、羽矢のこと好きになったぞ」
翔太がいうと、羽矢はこくりと小さく頷いた。