クマのぬいぐるみ
羽矢と会えなくなって、もう二ヶ月も過ぎた。
翔太はどこにも行かず、ベッドの上に寝ていた。
羽矢がいないということもあるが、羽矢を護るという役目を果たせなかった自分が嫌だった。
もう、会えないんだろうな………
翔太は完全に諦めていた。
羽矢とはもう会えない。
もう羽矢は自分のものではなくなった。
ずっとずっとわかっていたことだ。
自分が羽矢と一緒にいられるのは無理だと。
羽矢と離れる日が、いつかやってくるんだと。
翔太はゆっくりと起き上がった。
そして、羽矢の部屋に入った。
女の子らしいものがたくさん置いてある。
壁紙は薄いピンクに張り替えてあるし、ベッドの模様はハート柄だ。
洋服箪笥の上に、あの5万円のクマのぬいぐるみが座っていた。
羽矢の宝物だ。小さい時、よく話しかけたりしていた。
そっとそのぬいぐるみに触れた。
翔太の心の中で雨が降り出した。
また翔太の目から涙がこぼれた。
「立浦が転校するんだって」
しばらく行っていなかった大学で、そんな噂話が流れていた。
翔太は別に驚かなかった。ああ、やっぱりな。そんな気持ちで聞き流した。
「瀧川、立浦が転校する学校、どこか知ってるか?」
クラスメイトが話しかけてきた。
「知らないよ」
短く答えると、訊いてきた相手はそうか、といって歩いて行った。
休み時間になり、翔太は立浦のいる教室に行った。
しかしそこには彼はいなかった。
近くにいたクラスメイトに訊いてみると、立浦は図書室にいるといった。
翔太は図書室に向かって歩いた。
ドアを開けると、立浦は椅子に座って本を読んでいた。
翔太が近くに行くと、顔を上げた。
「なんだよ」
「おまえ、転校するみたいだな」
ああ、それか、と立浦はいった。
「そうなんだよ。場所は」
「そんなことどうでもいい」
翔太は立浦の言葉を遮った。
そして持っていた紙袋を渡した。
「これを、おまえにやろうと思って」
立浦は紙袋の中を見た。人の良さそうな顔をしたクマのぬいぐるみが入っていた。
「なにこれ。いらねえよ」
「妹が持ってたものなんだけど、もう飽きたからお兄ちゃんにあげるとかいってきて。だからおまえにやるよ」
「オレだっていらねえよ。こんなの」
立浦は紙袋を翔太に返そうとした。
しかし翔太は受け取らず、
「これ、5万円するんだよ」
といった。
立浦は驚いた顔をした。
「これが?5万もすんの」
「そう。だから、捨てるのももったいなくて」
立浦も少し困った顔をした。確かに5万を捨てるのは惜しい。
「付き合ってる彼女にでもあげてくれ」
そして立浦の返事を聞く前に、翔太は図書室をあとにした。




