人間
どうして羽矢が瀧川家に預けられたのか、ということを立浦は話した。
「親父はすごい女好きで、その女が瀧川翔太の母親だったんだ」
羽矢は驚いた。信じられなかった。
「っていってもエロい関係じゃない。再婚したい相手とかいってたな」
そこで立浦は声を低くした。
「オレは嫌だった。再婚なんて。親が嫌いなんだ。マナーがどうのこうのってうるさくていい加減にしろって思ってたんだよ。それなのにまた新しく母親をつれてくるなんて考えられない。しかも血が繋がってない、会ったこともないやつだぜ。冗談じゃない。さらに同い年の翔太っていうやつがいる。最悪じゃねえか」
立浦の話しを聞いていて、だんだんわかってきた。
「親父は結婚してほしいっていったんだ。でもあの女はもうすでに結婚して子どももいる。翔太って名前のな。だから怖くて返事ができなかった」
羽矢は諦めたように下を向いた。
「だからおまえを育てるっていったんだ。返事ができないから、せめて親父を助けようと思って」
羽矢は脱力した。まさかそんな、ドラマのようなことが、自分自身に起こっているなんて全くわからなかった。
「それであなたはお兄ちゃんのことを知ってるんだ。でもお兄ちゃんはあなたのことを知らない」
すると突然立浦は羽矢を睨んだ。
「お兄ちゃんお兄ちゃんって、あいつは他人だっていってるだろ。おまえの兄はオレだ。あんな男のことを兄だって呼ぶんじゃねえ」
羽矢は凍りついた。
「オレはあの男が大嫌いだ。何が悪魔だ、天使だ。頭おかしいんじゃねえの」
その言葉に、羽矢は黙っていられなかった。
「頭おかしいのはあなたの方だよ!突然目の前に現れて、本当はおまえの兄なんだとかいって」
そして、睨みつけながら「あなた、悪魔みたいね」といった。
立浦も羽矢を睨んだ。羽矢も負けずに睨み続けた。
さらに立浦は机の引き出しから何か取り出してきた。
はさみだった。
羽矢の体から冷や汗が滝のように流れた。
「何するの……?」
羽矢の震える声を無視して、立浦は羽矢に近づいていった。
「や……やめて……」
羽矢がいうのと同時に、立浦は羽矢の長い髪をつかんだ。
「痛い!」
羽矢は声を上げた。
しかし立浦はさらに強くつかんだ。
そして、羽矢の髪を切った。羽矢は抵抗したが、だめだった。羽矢の長い髪は床に散らばった。
「これでよし」
立浦はショートヘアになった羽矢を見て、満足そうにいった。
羽矢は自分の髪を見つめた。
その髪を踏み、立浦は笑いながらいった。
「お兄ちゃんのいうこと聞かないと、どうなるかわかったか?」
羽矢は何もいえなかった。
立浦は続けていった。
「おまえは天使じゃねえよ。オレも悪魔じゃない。ただの人間だ。そして翔太は頭がおかしい人間だ」
そしてすたすたと部屋から出て行った。




