表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/38

独り

翔太はしばらく病院で過ごすことにした。

ケガは少しずつ回復していった。痛みも和らいでいく。

脳震盪は軽いもので、わりとすぐに治ってくれた。

医師や看護婦は翔太にいろいろなことを訊いた。

「お名前は?」

「瀧川翔太です」

「何歳ですか?」

「19です」

「ご両親はどこに住んでいますか?」

翔太はこの質問には嘘をいった。

「死にました」

訊いてきた看護婦は驚いた。

看護婦は何かいおうと口を開いたが、翔太は遮った。

「いいんです。別に好きじゃなかったし」

翔太は全く気にしていないふうにいった。実際、全然気にしていない。もう二度と会いたくない。


どうして傷だらけで倒れていたかという質問には答えなかった。

まさか妹を見知らぬ男につれていかれて、ケンカをしたなんていえるわけない。

「よく覚えてないです」

脳震盪で記憶がない、と誤魔化ごまかした。



傷が完治し、翔太はマンションに帰ることになった。

本当はもっと病院にいたかった。

家に帰っても誰もいないからだ。

翔太が病院のドアを開けて外に出ようとした時に、後ろから声をかけられた。

振り返ると、あのおばさん看護婦がいた。

初めて優しくしてくれた人だ。

この人が母親だったらよかった、と翔太は何度も思った。

看護婦は翔太にメモを渡した。

メモには住所と電話番号が書いてあった。

「もし何かあったら、私にいって」

母親のような目でいった。

翔太にメモを渡し、「元気でね」と笑って、看護婦は歩いて行った。

翔太はしばらくそれを見ていたが、びりびりと破り捨てた。


いまから翔太が行く場所は悪魔のいるところだ。

この優しい人を巻き込むわけにはいかない。

独りであの悪魔と戦うのだ。

誰の力も借りないで。


「優しくしてくれて、ありがとう」


翔太は小さく呟いた。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ