天使
羽矢の愛らしさは、翔太だけでなく、学校の友達も感じていた。
女の子にも男の子にも好かれる。みんなが優しい気持ちになれる。
これはすごいことだ。
羽矢は髪が長く、腰のあたりまである。
歩くとふわふわと揺れて、羽のように見える。
まるで天使のようだ。
透き通る白い肌。まつ毛の長い大きな目。バランスのとれた体。
羽矢は完璧な女の子だった。
そして翔太はその天使の護り役。
常に彼女の隣にいる。
天使を傷つけるやつは絶対に許さない。
羽矢が幸せなら、翔太も幸せなのだ。
兄がこんなふうに想うなんて、ちょっとおかしいかもしれない。
あまりにも妹を溺愛しすぎている。
他人から見たら変だと思われるかもしれない。
だけど羽矢のことが好きなのだ。
羽矢を傷つけたくない。
まだ血の繋がった兄妹だと思っていた時に、羽矢がこんなことをいった。
「あたし、大きくなったらお兄ちゃんと結婚したいなあ」
妹の可愛い言葉に、翔太は笑った。
「兄妹は結婚できないんだよ。血が繋がってるからね」
「ええ?そうなの?」
「だめだよ。結婚しちゃいけない」
羽矢は不安そうな顔をした。
「あたし、お兄ちゃんがいないと何もできない。お兄ちゃんとずっと一緒にいたいよ」
何かあるたびに、羽矢はこのセリフをいう。
羽矢も兄のことが好きなのだ。
翔太がいなくなってしまったら、もう生きていけないともいったりする。
「大丈夫だって。大人になれば、兄ちゃんがいなくても平気だよ」
翔太が笑っていうと、突然羽矢が黙った。そしてじっと翔太の顔を見つめた。
その目になぜかどきりとした。
いつもとは違って見えた。
「でも、それでもお兄ちゃんと一緒にいたい」
なんだか大人っぽい話し方だった。
翔太はどきどきしながら、早口で答えた。
「もし兄妹じゃなかったら、兄ちゃんも羽矢と結婚したかったな」
そして翔太はすぐに目を逸らした。




