離
何とか羽矢は高校に合格した。
結局最後の最後まで志望校は決められなかったので、とりあえず受かりそうなところを当たってみたのだ。
思っていたところとは違うので羽矢は不満をいっていたが、高校を決められなかった自分が悪いのだと反省した。
翔太も大学に合格した。
といっても、ギリギリセーフのところだった。
自分の受験勉強より、羽矢の家庭教師をする方が多かったからだ。
頭のいい兄もこういうことがあるのかあ……と羽矢は少し驚いた。
「羽矢はやっぱり高校生になっても友だちは作れないのかな?」
翔太がいうと
「だってお兄ちゃん、この前友だちのスガワラにお茶かけて、大ゲンカしてたじゃない」
といった。
「あれはあいつが悪いんだ。羽矢もあんなやつと友だちになりたいか?」
そういうと、羽矢は思い切り首を横に振った。
「やだやだ!あんなエロい人!お兄ちゃんの友だちは、もっと頭がよくってかっこいい人がいい」
「頭がよくてかっこいい人はそんなにたくさんいないよ」
翔太は苦笑いした。
「そうか。羽矢は頭がよくてかっこいい人が好きなタイプなのか」
そういうと、
「うん。お兄ちゃんみたいな人がいい!お兄ちゃんは頭もいいし、かっこいいじゃない」
と強くいった。
翔太は少し照れた。
そしてふたりで笑った。
あの夜……。
羽矢のとなりに座った瞬間、翔太は緊張した。
なぜかはわからない。でも、羽矢を妹ではなく、好きな女の子に見えたのだ。
本当のことをいいそうになった。
もう喉の手前まで来ていた。
そしてそれを抑えるために、羽矢にきつい口調で気持ちと正反対のことをいい、自分の部屋に逃げた。
もっと羽矢と一緒にいたかった。
手を握り、羽矢の大きな目を見つめる。
そしてこういうのだ。
『羽矢と兄ちゃんは本当は血が繋がってないんだ。だから結婚できるんだ。兄ちゃんと結婚してくれないか』
しかしそれを聞いて、羽矢はこういう。
『こんなに長い間、ずっとあたしに嘘ついてたんだね!あたしが変なアルバイトして、嘘ついてるんじゃないかとか疑ってたけど、嘘ついてたのはお兄ちゃんの方じゃない!』
さらに自分が誰の子どもなのか、どうして瀧川家にいたのか、と悩むだろう。
そんな羽矢の姿なんて、絶対に見たくない。
「お兄ちゃんが好きな女の子作らないのって、あたしのせいかな」
羽矢が申し訳なさそうに訊いてきた。
翔太は首を横に振り
「いっただろう。兄ちゃんは羽矢がいてくれればそれで幸せ。友人も恋人もいらない」
その翔太に、突然羽矢がとんでもないことをいってきた。
「じゃあ、あたしがいなくなったら、お兄ちゃんは幸せになれないんだね」
翔太は驚いた。
「なんでそんなこというんだよ」
「だって、いつかはお兄ちゃんは結婚して、あたしと離れ離れになっちゃうでしょ。あたしも男の人と結婚して、お兄ちゃんと一緒にいられなくなる」
翔太の心の中に穴が開いた。
「そうだけど……。でもいまそんなこといわなくても」
「もしあたしがお兄ちゃんと離れ離れになったらどうなるんだろう」
羽矢は独り言のように翔太にいった。翔太は答えられなかった。
「あ、そういえば、あたし宿題残ってた。やんなきゃ」
翔太が何もいわないので、羽矢は話題を変えた。
「高校生になったから、ちゃんと自分でやるね」
そしてにっこりと笑った。
「わかった。もしどうしてもわからなかったら、兄ちゃんのところに来い」
翔太がいうと、羽矢は首を横に振った。
「あたし、もうお兄ちゃんがいなくても自分でやっていけるようにがんばる。だから、もうお兄ちゃんはあたしの勉強に付き合わなくていいよ」
羽矢の言葉を聞いて、翔太は目の前がぼやけたような感じがした。
もう……羽矢は子どもじゃない。
翔太と羽矢が離れる時がだんだん近づいて来ているのだ。




