忠告
翔太と羽矢は、また『兄妹』になった。
羽矢は何度も翔太に謝った。
そのたびに翔太は「兄妹なんだから気にするな」といった。
もう羽矢は翔太を透明人間扱いしなくなった。
透明人間になっていたのはあたしなんだよ、なんてこともいった。
羽矢が外出する時は、必ず翔太も一緒についていった。
『知らないおじさん』は、羽矢のことを狙っている。
いつ、どこでまた現れるかわからない。
菅原にも報告した。
菅原は自分のことのように喜んでくれた。
「よかったなあ!オレおまえのこと心配してたんだよ!」
わはは!といつものように明るく笑ってくれた。
電話越しなのに、菅原の太陽の笑顔が見えた。
「オレの秋奈もそうやって大人しくなればいいんだけどなあ」
菅原の言葉に、翔太も笑った。
心の底から笑えた。
こんなふうに素直に笑ったのは、何年ぶりだろうか。
そして…………
翔太は立浦のことを憎んだ。
あいつが『エロバイト』なんてものを翔太に話したせいで、もう少しで完全に羽矢は翔太の前から消えそうになったのだ。
しかもあいつは翔太が妹のことで悩んでいるのを知っていた。
それなのに話したのだ。
翔太をもっと苦しめ、狂わせ、地獄に突き落とそうとした。
同情なんか全くしていなかったのだ。
やはり立浦は悪魔だった。
よくわかった。
あいつとは完全に関係を絶つ。
これ以上あの男といるわけにはいかない。
翔太は立浦のいる教室に歩いて行った。
こちらから会いに行くのは初めてだ。
翔太を見つけると、立浦はすぐに近寄ってきた。
「なんだよ。おまえから来るなんて」
いつものように笑いながら気軽に話す立浦を見ながら、翔太は体の中が徐々に冷たくなっていくのを感じた。
「立浦」
自分でも驚くほど静かな声だった。
立浦も不思議そうに翔太を見た。
まだ自分がしたことがわかっていないらしい。
いや。
わかっていないふりかもしれない。
とにかく、この男には嫌というほど驚かされた。
顔も見たくない。声も聞きたくない。
翔太はまっすぐ立浦を見て、冷たくいい放った。
「もうオレはおまえと話さない」
すると立浦はきょとんとした顔になった。
「何いってるんだ?」
「今日でお別れだ。もう話しかけてくるな」
立浦はじっと翔太を見つめ、やれやれという感じで首を振った。
「友だちにそんなこというとは」
「いつオレとお前は友だちになったんだ」
「友だちじゃねえの?」
「友だちだと思ったことなんて一度もない」
へえ、という顔をして、立浦はいった。
「そうかあ。それは残念」
翔太はいらいらした。とにかくこいつとはもう話したくない。
「もう二度とオレに話しかけるな」
翔太がもう一度いうと、立浦はいきなり話題を変えた。
「そうだ。この前、エロバイトの話した時、おまえ真っ青になって走ってったじゃん」
こんな時に何をいっているんだ。
翔太は無視してそのまま歩いて行こうとした。
しかし立浦は離れずに、翔太についていった。
そして、とんでもないことをいった。
「あんなに信じちゃうとは、オレ、びっくりしたよ」
「えっ?」
思わず聞き返してしまった。
立浦は翔太の反応を見て面白そうに笑った。
「『エロバイト』なんてあるわけねえだろ。冗談だよ。オレが作ったウソ。いやあ、あんなに真に受けてもらえるなんて、ちょっと嬉しかったなあ」
翔太は愕然とした。
信じられなかった。
あれは嘘だったのだ。
『エロバイト』なんて最初からなかった。
「……ウソ……?」
「そ。瀧川って嘘とか見抜くのヘタそうだなって思って、ちょっとからかった」
笑いながら、そういったのだ。
翔太の体の中が一気に熱くなった。
立浦がついたちょっとした嘘で、翔太と羽矢は離れるところだったのだ。
翔太は本気で悩んでいた。
その翔太を、からかった……。
翔太が石のように固まっていると、「ごめんごめん」と笑いながら謝った。
「悪かったよ。もうこれからはしないから。許してくれよ」
これから………………………?
「これから」なんてない。
もうここで翔太と立浦の関係は絶たれる。
二度と会わない。
立浦には気をつけろよ…………………………………
翔太は怒りで震える声でいった。
「おまえは悪魔だ。悪魔は地獄に堕ちろ」
すると笑っていた立浦が、突然険しい顔になった。
いままで見たことのない顔だ。
たぶん、この顔が本当の立浦の顔なのだろう。
立浦はゆっくりと口を開き、一言だけいった。
「地獄に堕ちるのはどっちだろうな」
そういい残して、翔太の目の前からいなくなった。




