囁き
立浦と話すことが増え、菅原とあまり話しをすることがなくなった。
翔太はこれでいいのか、と自問していた。
このまま立浦と一緒にいても大丈夫か。
立浦は、なぜか嫌な感じがしないのだ。
翔太はよく「嫌な予感」を感じるのだが、立浦からはそれが感じられない。
いつも油断しそうになる。
もっと親しくなってしまったら、もとに戻れないような気がする。
そういえば前にクラスメイトに『立浦には気をつけろよ』といわれた。
羽矢はというと、いっこうに関係は薄くなっていった。
妹はいつも何をしているのか。
怒らないから、ちゃんと教えてほしい。
そんな時だった。
立浦が、とんでもない話を持ってきた。
「すごいこと知ったよ!」
「すごいこと?」
「うん。いま中学生とか高校生の女の子がやってるバイトがあってさ、『エロバイト』っていうんだけど」
翔太は凍りついた。
すぐに羽矢の顔が浮かんだ。
「自分のエロい写真やビデオを少女好きのオヤジに売って金稼ぐってアルバイトなんだけど、すごいよな!」
立浦は興奮しながらいった。
翔太は体中が石のように固まった。
「もちろん親にばれたらまずいだろ。だから夜遅くにバイト仲間同士で撮り合うんだって。可愛い娘だと10万近く稼げるみたいだ」
翔太はもう何も答えられない。
そして頭の隅で前に羽矢がいっていた言葉を思い出した。
このままお兄ちゃんばっかり働いてたら、あたし、すっごくつらい。
お兄ちゃんが無理してるところ見るの、もういやだ。
だから、あたしもアルバイトしたい…………。
羽矢の帰りの時間が遅くなった理由。
まさか、あの羽矢が。
兄のために自分を犠牲にした……?
そんなはずはない。
羽矢はそんなことをするような性格じゃない。
けれどまだ子どもだ。
何をするのかわからない。
さらに追い討ちをかけるように立浦がいった。
「特に多いのが髪の長い娘だって。短い娘はボーイッシュな感じがするからって……」
翔太は立浦の話しを無視して、走り出した。
もうこの悪魔の囁きを聞きたくなかった。