再悪
羽矢は小さい公園のベンチに座って、考えていた。
どうしたら翔太ともと通りになれるか、
翔太に大人だと認めてもらえるか。
そして、この胸の中にある気持ちは、『初恋』というものなんだろうか……。
最近羽矢はこの小さな公園に行っている。
翔太と顔を合わせたら、あわてて何かおかしなことをしてしまうかもしれない。
だから、気持ちを落ち着かせるために、ここに行くのだ。
羽矢は数学が苦手だ。
だからきちんと答えを出せないのかもしれない。
数学は必ず答えが出る。
ため息をつきながら時計を見た。
午後7時になっていた。
周りは真っ暗で、誰もいない。
羽矢は帰ることにした。
マンションの階段を一段一段登り、部屋のドアの前に立った。
音を立てないように、そっと扉を開けた。
靴を脱ぎ、リビングに入る。
翔太はリビングにはいなかった。
部屋の中で眠っているようだ。
羽矢は、こっそり兄の部屋のドアを開けた。
ベッドの上で熟睡している翔太がいた。
起きないように忍び足で彼のそばに近づいた。
無理してないなんていっているけれど
本当はものすごく無理をしている。
胸の中がじわじわ熱くなった。
羽矢の目から涙がこぼれそうになった。
「ごめんね………」
小声でいった後、ふと部屋の窓に目を向けた。
羽矢は凍りついた。
信じられないものが見えたからだ。
「……………うそ………」
頭の中が真っ白になって、部屋から飛び出した。
あれは…………………。
もしかして…………………………。
翔太が迎えに来てくれるようになって、『知らないおじさん』は出てこなくなった。
不安が消え、翔太も羽矢も安心した。
もう出てこないんだ、と思っていた。
それなのに……………………………
初めて見たのは10歳の時。
あれからもう4年も経った。
4年も…………………………
経ったのに………………………………
まだあたしのことを見てるの…………?
羽矢は動けなくなった。